中川大志インタビュー「やりたいと言っておくものだと思いました」『アクターズ・ショート・フィルム3』

5人の人気俳優、高良健吾、玉木宏、土屋太鳳、中川大志、野村萬斎がショートフィルムの監督に挑戦する『アクターズ・ショート・フィルム3』。2月11日(土・祝)の放送配信を前に、『いつまで』の監督を務めた中川大志の公式インタビューが届きました。

ヘアメイク:堤紗也香 スタイリスト:Lim Lean Lee 取材&撮影:黒豆直樹
ヘアメイク:堤紗也香 スタイリスト:Lim Lean Lee 取材&撮影:黒豆直樹

監督をやってみて気づいた点も多い

――監督業に挑戦できる機会を得たことについて、どのような思いをお持ちになりましたか?

 

中川:子どもの頃、この仕事に出会う前から、映画のメイキングを見るのが好きでして、“裏側”というか「このカットはどういうふうに撮影されたんだろう?」といったことにすごく興味がありました。

 

この仕事に出会ってからも、様々なプロフェッショナルな大人たちが集まって、ひとつの作品、エンタテインメントを作っていくという現場がすごく好きでした。

 

僕はずっと“俳優部”の一員として作品に関わってきましたが、現場には他にも技術スタッフ、美術、衣装、メイクなどいろんな部署があって、彼らと一緒に作品を作っていく過程が楽しくてこの仕事を続けてきたところもあったので、そういう意味でずっと(監督業に)チャレンジしてみたいという思い、憧れはありました。

 

それがまさかこんな早いタイミングで、しかもこれだけ恵まれたバックアップの体制がある中でやらせていただけるというのは、贅沢な機会で嬉しかったです。

 

――「やりたい」という思いは周囲には伝えていたんですか?

 

中川:いろんなところでポロポロと言ってましたね。取材や番組などで。それをプロデューサー陣が見てくれていて声をかけてくださいました。言っておくものだなと思いました(笑)。

 

――実際に監督をされてみて、手ごたえは感じていますか?

 

中川:納得はいっていますね。やりたいことを全部叶えさせていただけたなと思います。もちろん、一人では辿りつけなかったと思います。ものすごく充実した体制で、ここまでバックアップしていただいてやれる機会とい うのはなかなかないと思います。アドバイスもいただきながら、やりたいことをかなえてもらいました。

 

準備段階からそうですが、撮影中も全て納得のいくカットが撮れましたし、編集も楽しかったです。仕上げまでもうちょっとあるんですが、自信をもって自分がやりたかった作品ができたと言えますね。

 

――以前からこういう作品を撮りたいという構想はお持ちだったんですか?

 

中川:いや、今回のお話をきっかけに「どんなものをつくろうか?」と考えました。

 

――撮る前と撮った後で変化はありますか?

 

中川:改めて、作品の完成にいたるまで「0」から「10」までの段階があるとしたら、僕ら俳優部は半分を過ぎているような段階で参加することも多いのですが、知らないところでこれだけの準備があって、これだけのスタッフが動いている。ロケハンに行くのもそうですし、ロケーションを貸してくださる人たちもいて、本当に何から何までですね。

 

もちろん、想像はしているし、頭ではわかっていたんですけど、直接、自分が経験することで、ひとつの作品がどれほどのプロセスを踏んだ上で成り立っているかということを感じました。スタッフの方たちへのリスペクトは強くなりましたし、難しさも楽しさも感じることができました。

 

――自分が演出をつける立場を経験して、今後の俳優業に対して意識が変わった部分などはありますか?

 

中川:監督がどれだけ大変かということを知ることができたというのはありますね。俳優部に戻った時、(監督の大変さを)知っているのと知らないのでは大違いなので。

 

僕はカメラも好きで、写真を撮ったり、学生時代 には遊びで映像を撮って自分で編集をしたりもしていたんですが、ちょっとでも知っていると違うんですよね。「あ、いま、何ミリのレンズで撮っているのか」とか、撮ったことがあるとわかることってあって「いま、どれくらいのサイズで自分は撮られているのか」とか「いまは明かりが少ないから、早く動き過ぎるとブレちゃうな」とか。そういうことってやったことがないとわからないですよね。

 

監督業もそうで、今回経験させていただいて、他のスタッフの方たちの動きもわかるようになって、そうなると(俳優部で)現場にいて「いま、何の時間なんだろう?」とわかんなくなることがないんですよね。他のスタッ フの人たちが何をやっているのかがわかるというのは大きいですね。いろんな部署の人たちの仕事をより具体的に理解できるようになった部分もありますね。

 

ただ、監督によって、組によってディレクションの仕方みたいなものも全く違うし、進み方も違うので「正解」はないと思ってます。監督として今回、みなさんに演出をつける上で、やはり自分は俳優なので、できる限り 俳優の方たちに寄り添えるように、俳優の「生理」がわかっているぶん、そこは丁寧に言葉を選びながら、距離感や現場のつくり方に関して考えて、常に「自分だったら?」というのは頭にあったかもしれません。

 

俳優をやったことがある監督もいれば、監督をやったことのある俳優もいますが、信じて任せるところは任せる、託すところは託さないといけないし。監督がジャッジしないといけない場面もありますが、それでもその道のプロの人たちが担っている役割はあるので、こちらも言うことは言いますが、最終的に、それ以上はその道のプロにしかわかり得ない部分もあると思うので、そこは信じて託さないといけないし。そうしたリスペクトが集まって、こうやって一つの作品が出来上がっていくというのは改めて感じたところですね。

社会に出て悩む若者の心情を表現

――キャストのみなさんは、同世代で、これまで“俳優同士”として付き合ってきた存在ですが、今回は 「監督と俳優」という関係性でした。同世代という点で感覚的にはつながりやすかったかと思いますが、やってみていかがでしたか?

 

中川:楽しかったですね。そこは今回、やりたかった部分でもありました。過去2回の『アクターズ・ショート・ フィルム』を含め、自分が最年少組の監督ということで、やはり自分たちの世代のエネルギー、この先、何十年経っても「この時にしかできなかったよね」と言えるような作品にしたいという思いがありました。なので、自分たちの世代の物語にしたくて、必然的に俳優陣も同世代になったし、脚本をお願いした増田嵩虎さんも同世代でした。

 

――そもそも、この『いつまで』という物語がどのようにつくられていったのか? 脚本の増田さんにはどういう経緯で入ってもらうことになり、どんな話し合いをされたのか? 教えてください。

 

中川:「若いチームにしたい」という思いは最初からありました。監督も若いし、出ているやつらも若いし、扱っているテーマや出てくるキャラクターたちも同じ世代の話にしたいなと。

 

今回、他に4名の監督さんがいますが、過去の『アクターズ・ショート・フィルム』も含めて、ひとつ自分の“カラー”“強み”としてそこで勝負した いなという思いがありました。

 

じゃあどういう話にしようか? と考える中で、いろんな紆余曲折がありました。もっとSFっぽい話にしてみようかとか、もっとぶっ飛んだ設定だったり、アドベンチャー、アクションっぽいものだったり、いろいろあったんですが、最終的には、もっとパーソナルな部分に立ち返って考えた時、僕自身の周りにいる友達や同級生、具体的に顔が思い浮かぶ仲間たちから考えていって、こういう形になっていきました。

 

20代になって社会に出て行って、いろいろめまぐるしい中、仕事もなかなか慣れずとか、みなさん置かれている状況はいろいろあると思います。目標とか目的とか夢とかあって、そこに一生懸命走っていたはずなのに、ふとした瞬間に「あれ? そういえば、なんで俺、そこに向かってたんだっけ?」とか思ったり、ゴールすることが全てになってしまって、目標や夢が自分の中に芽生えた瞬間のことを忘れてしまうことって意外とあるのかなと思いました。

 

そういう時、学生時代の友達や仲のいいやつらと会うと、自分に立ち返れる瞬間っていうのが結構あるんですよね。でも、男同士だと「いや、聞いてくれよ。俺、いまこういうことで悩んでてさ」とか、直接的なことは言 わないんですよね、恥ずかしいし(笑)。

 

別に友達と会って何かを相談して、ヒントや答えをもらうというわけではなく、一緒にいる時間が自分を取り戻せる時間だったり「あぁ、俺ってこういうやつだったんだ」とナチュラルに返れる瞬間だったりするんですよね。それって誰しも経験のあることだったりするんじゃないか? 大人になったみなさん、もっと上の世代のみなさんにも懐かしかったりするんじゃないか? 

 

本作品は終電から始発までの話ですが、そこで何か解決するという話でも答えが出る話でもないですし、明日からも同じ毎日が続くんですけど、どこかでひとつ自分の指針に立ち返ることができる――そういう友達の存在の話にしてみようかなと。

 

最初はいろいろ考えていたんですけど、結局は自分のパーソナルな人たちのことを考えて企画を書き始めたら、それまで全然進まなかったのがバーッと進んで、こういう話になりました。

 

――増田さんに入ってもらうことになったタイミングは?

 

中川:企画自体を考えて企画書を書いて、親友の結婚式の帰り道に酔っぱらった3人がどこかの終着駅に...という構造自体は作って、増田さんにお願いしました。

 

増田さんとは以前からつながりがあって、僕の高校の同級生が劇団を作って自分たちのプロデュース公演をやるときに本を書いていたのが増田さんだったんです。増田さんがどんな本を書くかは知っていて、同じ世代だからこそ若者の空気感を作ったり言葉にするのがすごく上手な方だったし、ここに同世代の脚本家の増田さんが入ってくることにもひとつ意味があると感じてお願いしました。

 

――タイトルの『いつまで』というのは、どのタイミングでどのように決まったんでしょうか?

 

中川さん:そこは増田さんが考えました。とくに理由などについては話してないんですよね...(笑)。でも、なんとなくの“思い”みたいなもの、書き上がった脚本を読ませていただいて「こういうことなのかな?」と意図は汲み取っていました。いろんな含みをもった、いろんな捉え方ができる余白のあるタイトルですよね。この物語も、なにか“答え”が出るお話ではないので、そういう意味で僕はすごく納得したタイトルですね。

 

――演出部分で大変だったり、何度もテイクを重ねたシーンなどはありましたか?

 

中川:お芝居に関してはそんなになかったですね。3人がものすごく素敵で、それぞれキャラクターが立っていて、バランスの良い3人だったので、何度もテイクを重ねたというのはなかったですね。

 

ただ、神社の階段を3人が昇っていくシーンは、1カットで撮っているんですけど、そこは大変でした。何十段もの階段をカメラマンさんが後ろ向きでカメラを担いだ状態で昇りながら撮っていて、しかもナイターなので他のスタッフの影が映り込まないように。あのシーンは1カットで行こうというのは決めていたので、そこは大変でしたね。

 

――現場ではモニター越しで演技を見ていたんですか? それとも直接、お芝居を見ていたんでしょうか?

 

中川:現場の環境によってどちらもありました。

 

――現場でお芝居を見ていて、想像やイメージを超えるものが出てきたのを感じるような瞬間はありました か?

 

中川:やはり、ひとつひとつのセリフの発し方、キャラクターの捉え方など、3人それぞれ僕が想像している以上のものを出してくれたなと思います。僕は監督として全てを見なくてはいけないし、もちろん3人分の台本を読んでいますが、彼らは自分の役柄のことを一人で担い、キャラクターを自分で育てているんです。僕が俳優部の一員として参加している時もそうですが、他の誰よりも自分がこの役のことを理解して好きでいると思っているので、そこに関しては任せる部分は任せないといけないと信頼しています。

 

もちろん、僕もそれぞれのキャラクターに対する思い入れはありますが、彼ら以上に役のこと考えている人間はいないので、そこは信頼していました。それが楽しかったですね。「そうやってくるんだ!」という新しい発見や驚きが常にありました。

『アクターズ・ショート・フィルム』とは?

映画史上BESTにもあげられる『市民ケーン』は、俳優オーソン・ウェルズが25歳のときに監督・出演した作品です。以来、北野武、クリント・イーストウッドにいたるまで、俳優が名監督となる例は多く、日本でも若手俳優らが監督に挑戦し、成果をあげはじめています。監督の意図を最もよく理解し表現できる俳優は、監督としての才能をも埋蔵した存在なのです。

 

〝映画のWOWOW〟が開局30周年を記念し俳優たちと立ち上げたショート・フィルム・プロジェクト。目指すは「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」のグランプリ受賞、そしてその先へ...。

 

ルールは、1.尺は25分以内 2.予算は全作共通 3.原作物はなし 4.監督本人が出演すること。

 

 『アクターズ・ショート・フィルム3』は、2月11日20時よりWOWOWプライムで放送、WOWOWオンデマンドで配信されます。

 

[番組概要]

監督: 高良健吾、玉木宏、土屋太鳳、中川大志、野村萬斎(※五十音順)

チーフプロデューサー:射場好昭/コンテンツ戦略:仁藤慶彦/プロデューサー:小室秀一、宮田幸太郎、和田圭介 

制作プロダクション:スタジオブルー 

製作著作:WOWOW

番組公式サイト : https://www.wowow.co.jp/movie/asf/ 

番組公式Twitter : https://twitter.com/asf_wowow 

番組公式インスタグラム:https://www.instagram.com/asf_wowow/