グランプリに村上春樹を基にした『めくらやなぎと眠る女』──押井守が審査委員長を務めた「新潟国際アニメーション映画祭」閉幕

第1回ゆえの問題を画期的な審査手法で解決

⻑編商業アニメーションにスポットを当て、⻑編アニメーション映画のコンペティション部門をもつアジア最大の祭典として新潟から世界へアニメーション文化を発信する映画祭『新潟国際アニメーション映画祭』が開催され、最終日の3月22日に「コンペティション部門」の授賞式が行われました。

 

グランプリは、村上春樹の6つの短編(『かえるくん、東京を救う』『バースデイ・ガール』『かいつぶり』『めくらやなぎと眠る女』『ねじまき鳥と火曜日の女たち』『UFOが釧路に降りる』)を基にした『めくらやなぎと眠る女』(監督:ピエール・フォルデ)。

 

ジェネラル・プロデューサーの真木太郎は授賞式で次のように挨拶。

 

「第1回新潟国際アニメーション映画祭授賞式にようこそいらっしゃいました。審査委員長の押井さん、審査員を務めて下さったデーブさん、ジンコさん、ありがとうございます。最初に皆さんにお知らせしたいことがございます。この賞は監督賞、脚本賞、美術賞、音楽賞と発表しているのですが、実は賞の名前を変えました。その部分も含めてこの後の授賞式を楽しみにしていてください」

「アニメーションには多様な表現があり、賞じたいを作り直した」押井守

そして、押井守審査委員長が次のように総評を述べました。

 

「この結果は、映画をご覧になった方は意外な受け止め方をしているかもしれません。もしかしたらひっくり返っているかもしれない。実は、今回審査にはいろいろと問題がありました。最大の問題は、これだけ多様な表現の作品が10本並んだところで通常の映画のような評価の仕方が果たして通用するのかどうか。というところで、審査の冒頭で議論になりました。

 

アニメーションの表現は、本来からして多様なものなんです。その作品にフィットしたスタイルというものが必ず存在する。今回は作品の主旨をそれに一番適合したスタイルが存在するかどうか、通常の映画祭の審査とはやや異なる審査基準で決定しました。グランプリを除いた3つの賞を審査員が協議して新たに作り出した、いわばあまり前例のない賞なんですけれども、それぞれ作品のおかれている、あるいはアニメーションという表現がおかれている今日的な立ち位置、おかれた立場、それを象徴する賞となっています。『境界賞』には多少説明が必要だと思いますが、アニメーションの周辺には、劇映画だけではなくたとえばミュージッククリップであったり、隣接する領域の中で優れた作品がたくさん存在します。同じように、アニメーションの制作スタイルも時代に合わせて刻々と変わってきます。例えば、これからゲームで使用されているゲームエンジンを使って映画を作り出す時代が来ると思います。これだけ多様な表現があり、多様な制作方法があり、さらに言えば、地域で異なる制作の動機が存在します。それらを、従来と同じ審査基準で相対的に評価していくことはたぶん不可能、ということで3人の審査員の意見が一致しました。

 

ことアニメーションに関して言うなら、そこに集まった作品の中から自動的に賞が生まれる。それが正しいやり方ではないかと。画期的ではありますけど、この映画祭の初回にふさわしい、今日的な賞になっているのではないかと自負しております。特にグランプリ作品に関してはですね、ご覧になった方は非常に驚かれたと思いますが、一見すると非常に地味なスタイルなんですけども、現代文学を表現する最適のスタイルなんじゃないかということで、3人の審査員の意見が一致した、唯一の作品です。

 

最後に申し上げたいのは、今回参加していただいた10本の作品のクオリティの優劣を決めるための賞ではないということです。参加してくれた監督さん、プロデューサーの方々、関係者の方々、どうか僕を恨まないでください(笑)今回の作品は、どれも大変素晴らしい作品が並んだと思います。僕の想像を超えて良い作品が集まって、とても嬉しいと思っています。やや意外な結果になったかもしれませんけども、新潟国際アニメーション映画祭、第1回に相応しい、かなり画期的な賞になったんではないかと考えています。それは違うだろ、というような考え方の方もいらっしゃると思いますが、それは私に文句を言ってください(笑)どうもありがとうございました」

ピエール・フォルデ監督「光栄です」ビデオメッセージで謝辞

グランプリを受賞した『めくらやなぎと眠る女』監督のピエール・フォルデはビデオインタビューで登場。

 

「みなさまこんにちは、素晴らしいお知らせを受けました。とてもとても嬉しいです。実は新潟の映画祭に行くことをとても楽しみにしていました。世界中の色々な映画祭に行きましたが、その中でも新潟は楽しみにしていたんです。しかし残念ながら、本作のフランスでの公開が本日のため行けませんでした。重ねて感謝申し上げます。みなさまの感想もぜひ聞きたいです。どんなご質問にも喜んでお答えしたいと思いますので、私のサイトpierrefoldes.comからご連絡ください。新潟にいらっしゃる皆様、審査員の皆様、改めてありがとうございます、光栄です」

また、従来の価値観に捉われず斬新で新しいものに挑戦し創造していく作品に与えられる「傾奇賞 (かぶく)賞」を獲得した『カムサ – 忘却の井戸』のヴィノム監督は、次のようにコメントしています。

 

「この新潟でこのような大きな賞をいただけたこと、本当に本当に心から感謝しております。この『カムサ』という映画はずごく難しかったです。短編を長編に変えていくということで、それを大変少ない人数で時間をかけて作ってきたわけなんですけれども、完成したときには本当に大きな喜びを感じました。そしてすべての感謝を制作スタッフに捧げたいと思います。同時にいらっしゃってるすべての監督にも感謝を申し上げたいと思います。この新潟の地で私は才能ある人々にたくさん出会うことができました。そして最後に、押井監督に心から感謝申し上げたいと思います。というのも、この作品は大きなインスピレーションを『天使のたまご』から得たものだからです。本当にありがとうございました。」

「奨励賞」を獲得した 『劇場版「ヴァンパイア・イン・ザ・ガーデン」』の牧原亮太郎監督は次のように挨拶しました。

 

「このような賞をいただきましてとても光栄に思っています。作っているあいだはずっとコロナが大変な時期で、スタジオにも人がいないし、配信用の作品を劇場版にした作品ですのでスタッフの顔もお客さんの顔もなかなか見えづらいなかで作っていました。皆さんの顔を見ながら作品をお見せする機会が得られなかったので、今回の映画祭でこういう方々がお客さんなんだとわかって、とても感動しました。これもコロナのせいなのですが、つくってくれたスタッフの皆さんにお礼を言えなかったので、この場を借りて、作ってくれたスタッフの皆さんにも感謝の気持ちを送りたいと思います」

©WIT STUDIO/Production I.G
©WIT STUDIO/Production I.G

「2D」や「3D」「コマ撮り」といった制作手法またはジャンルの様々な境界に捉われずアニメーションの世界に進化を与える作品に与えられる「境界賞」を獲得した 『四つの悪夢』では、ロスト監督が故人のため、プログラム・ディレクターの数土直志が壇上にあがりました。

最後に、フェスティバル・ディレクター井上伸一郎が閉幕の挨拶をしました。

 

「まずはグランプリアワードを受賞なさいました『めくらやなぎと眠る女』のピエール監督おめでとうございます。そして各賞のウィナーの皆様、本当におめでとうございます。コンペティションに参加してくださった監督の皆様、関係者の皆様、すべての皆さまに感謝申し上げます。

 

押井監督をはじめ審査員の皆様、お忙しいなか貴重なお時間を割いていただき、たぶん真剣にものすごく悩んで激しい議論を戦わせていただいたと思います。皆さまに感謝します。

 

この新潟の地に参りまして、映画祭を行ってきましたが、新潟の皆さまの温かいおもてなしに感謝いたします。街中に映画祭のフラッグがあるのはもちろん、居酒屋さんとかお蕎麦屋さんにもポスターがあり、料亭にもチラシが置いてあり、街中が映画祭を応援してくださっていると実感しました。この新潟の地で、日本の中から海外から多くのアニメ関係者が6日間集まっていただき、交流を深めるという最初の私の夢がかなった形です。すべての皆さまに感謝します」

なぜ今の日本に国際アニメーション映画祭が必要なのか?

アニメーションは日本を代表する文化となり、「アニメ」と呼ばれる日本の作品はいまや世界中のどこででも見ることができます。しかし、未来永劫アニメーション文化を維持するためには、文化価値の共有や作品への評価、人材やスタジオが持続する基盤を作る必要があります。

 

現在、アニメーション文化は、「商業」と「アート」、「国内」と「海外」、「専門家」と「大衆」に分断され、十分な力を発揮しているとは言えない現状があります。それを打破する中心的な役割を担おうとするのが「新潟国際アニメーション映画祭」です。

 

[開催概要]

「新潟国際アニメーション映画祭授賞式」

会場/りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場

日時/3月22日(水)18:30~

登壇者/押井守(審査委員長)、ジンコ・ゴトウ(審査員)、デヴィッド・ジェステット(審査員)

挨拶/真木太郎(ジェネラル・プロデューサー)

閉会挨拶/井上伸一郎(フェスティバル・ディレクター)

 

「第1回新潟国際アニメーション映画祭」

英語表記:Niigata International Animation Film Festival 

主催:新潟国際アニメーション映画祭実行委員会 

企画制作:ユーロスペース+ジェンコ 

特別協力:新潟市、新潟日報社、新潟県商工会議所連合会、燕商工会議所

後援:外国映画輸入配給協会

協力:新潟大学、開志専門職大学、JAM 日本アニメ・マンガ専門学校

協賛:NSG グループ

会期:3月17日(金)〜22日(水) 毎年開催 

上映会場:新潟市⺠プラザ、開志専門職大学、T・ジョイ新潟万代、シネウィンド 

イベント会場:新潟日報メディアシップ、古町ルフル広場、新潟大学駅南キャンパスときめいと 

公式サイト:https://niaff.net