「Spirit of Chick Corea」
スティーヴ・ガッド&ミカ・ストルツマンのCD「Spirit of Chick Corea」が6月8日に発売されました(2,700円・税別)。
このCDは、八島敦子さんが立ち上げた「世界を旅するジャズレーベル」Eight Islands Recordsの第3弾。
八島さんは、かつて評論家の亀山信夫さん(通称・亀さま)と共にステレオサウンドHiVi誌でNHKの「東京JAZZ」を取材したときに、当時プロデューサーとして試聴室にまでご足労いただき、ハイビジョン録画BDをご一緒しながら、ハンク・ジョーンズなど数々の名ジャズプレーヤーとのお話を語ってくださいました。
そのなかでも八島さんと親交が厚かったひとりが、日本の文化や人々をこよなく愛し、昨年21年2月9日逝去したジャズピアニスト、チック・コリア。本作は、そのスピリッツと共に音楽の旅を続ける盟友たちによるトリビュートアルバムなのです。
プロデュースは、ドラムスのスティーヴ・ガッド。演奏には、日本が誇る国際的マリンバ奏者ミカ・ストルツマンや、チックが敬愛した世界最高峰クラリネット奏者のリチャード・ストルツマン、チックを長年支え続けたジョン・パティトゥッチ(ベース)とエディ・ゴメス(ベース)、そしてヴォーカルにはチックの愛妻ゲイル・モラン・コリアらが参加しています。
収録曲は「Armando's Rhumba」「Crystal Silence」「Spain」等、いまやスタンダードといえる名曲に加え、チックがミカのために作曲した2曲、ジョン・パティトゥッチがチック・コリアに捧げるために書き下ろした「Chick's Groove」のほか、ボーナストラックとしてリチャード・ストルツマンとチック・コリアによる幻のデュオ音源「Japanese Waltz(1985年録音)」も収録。
八島さんはライナーノーツで、「音楽家の人生は旅であると教えてくれたのもチック」と本作に込めた思いを長文で綴っています。
録音エンジニアは、チックが絶大なる信頼を寄せ、共に音楽世界をつくってきたバーニー・カーシュ。マスタリングは、名匠・グレッグ・カルビ。マリンバ奏でる重層的な響きは、ぜひご自宅のオーディオシステムで目を閉じつつ味わっていただきたきたいとおもいます。
ちなみに、アナログレコードでの発売もこの秋に予定されているそうです!
ジャズ好き建築乙女のEight Islands Records
八島さんのEight Islands Recordsは、すでに2枚の作品をリリースしています。
第1弾は、Shahin Novrasli(シャヒン・ノヴラスリ)の「Bayati」(2,700円・税別)。
アゼルバイジャンの首都バクー出身。11歳にしてオーケストラと共演するなどクラシック音楽の神童として注目。イスラエルのアヴィシャイ・コーエンやアルメニアのティグラン・ハマシアンらと同様、東洋と西洋の文化が融合する地で育まれたその高い技術と感性は、まさに指先からこぼれる文化の錬金術。ジャズピアノの巨匠アーマッド・ジャマルが「彼は私が今まで耳にした中で最も素晴らしいピアニストの1人だ」と語ったほど。フランスのBee Jazzレーベルの終了により入手困難となっていた幻の一枚で、ジャズ、クラシック、ムガム(アゼルバイジャンの伝統的な民族音楽)が絡み合う、融合と越境の音楽です。
第2弾は、Bob James & Sam Franz(ボブ・ジェームス&サム・フランツ)の「2080」(2,700円・税別)。
ジャズ・フュージョン界の巨匠ボブ・ジェームスがコロナ禍のさなか出会ったサム・フランツは、ミシガン大学在学中にMEMCO(ミシガン電子音楽集団)でDJを始め、ミシガン南東部の歴史的でアンダーグラウンドな音楽に触れる学生時代を過ごした若きDJ/エレクトロニックアーティスト。実はボブ自身も約60年前ミシガン大学卒業後、当時最先端のアヴァンギャルドミュージックに挑みその斬新なサウンドでセンセーションを巻き起こしていました。つまり、60年の時代を超えて、2人は同じ場所で同じスピリッツで音楽に挑んでいたということ。タイトルの『2080』とは、2人の年齢を掛け合わせた数字と2人が目指す音楽世界「2080年のサウンド」に由来。「まるで映画のサントラを創るように制作した」と語る時空を超えた挑戦と実験の音楽で新たな旅が始まったといえるでしょう。
「夢見る乙女」でなく、「夢を叶えた乙女」
八島さんは幼少期をアメリカ・シアトルで育ち、日本と海外の架け橋となるような仕事に就きたいと考え早稲田大学政治経済学部で国際政治を学ぶ傍ら同時通訳を勉強。卒業後はNTTでの仕事を通じ都市計画に興味を持ち、慶應義塾大学大学院で建築・都市デザインを学ぶと、98年、パビリオンなど大きな映像空間の設計をしようとNHKエンタープライズに入社します。
当初はそれとは縁遠い部門に配属されて途方に暮れていたそうですが、ある日、社の廊下で「オーシャンブルー・ジャズフェスティバル」のポスターを偶然発見。担当者を捜し当てることに。チケットがもらえたらいいなぐらいに思っていたら、アーチストの通訳のバイトに駆り出され、ジャズフェスティバルの魅力の虜になってしまいます。
八島さんは持ち前のパワーで同僚を巻き込んで、02年の立ち上げから17年までアジア最大のジャズフェスティバル「東京JAZZ」で「国境を越えて、世代を超えて」をテーマに、企画の立案から出演交渉までを担います。
その経験と人脈を生かし、21年に設立したエイトアイランズ株式会社で、長年の夢である「音楽と文化を通じて日本と世界を結ぶ」ことを目指し、コンサートやイベント、コンテンツのプロデュースに励み、22年3月「旅するジャズ」をテーマにした新レーベルEight Islands Recordsを立ち上げたのです。
八島さんはこれからも世界各地で進化・発展を続けるジャズとともに、様々なアーティストの「音楽探求の旅」で生み出されたユニークなプロジェクトを紹介していくべく、世界のジャズシーンを追い続けることでしょう。