平和について考えるために──戦争映画5選
ウクライナ情勢を背景に、平和への願いが込められた戦争をテーマにした映画が、この夏、続々と公開されています。戦後77年、8月15日終戦記念日を迎えたいま、公開中の戦争映画をまとめてみました。
『ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言』 8月5日(金)より全国公開中
イギリスのドキュメンタリー監督ルーク・ホランドが、アドルフ・ヒトラーの第三帝国に参加したドイツ人高齢者たちにインタビューを実施したドキュメンタリー。
ホロコーストを直接目撃した、生存する最後の世代である彼らは、ナチス政権下に幼少期を過ごし、そのイデオロギーを神話とするナチスの精神を植え付けられ て育ちました。戦後長い間沈黙を守ってきた彼らが語ったのは、ナチスへの加担や、受容してしまったことを悔いる言葉だけでなく、「手は下していない」という自己弁護や、「虐殺を知らなかった」という言い逃れ、果てはヒトラーを支持するという赤裸々な本音まで、驚くべき証言の数々でした──。
©2021 Focus Features LLC.
『島守の塔』7月22日(金)より全国公開中
沖縄戦末期、本土より派遣された2人の内務官僚──戦中最後の沖縄県知事として沖縄に赴任した島田叡と、警察部長の荒井退造がいました。
多くの住民の犠牲を目の当たりにした島田は、「県民の命を守ることこそが自らの使命である」と決意し、一億総玉砕が叫ばれる中「命(ぬち)どぅ宝、生きぬけ!」と叫び、荒井と共に県民の命を守ろうとします。
本作品は、第二次世界大戦末期、長期にわたる日本国内唯一の地上戦があった沖縄を舞台に、軍の命令に従いながらも苦悩し、県民の命を守り抜こうとした戦中最後の人々の姿を描いています。
本編映像では、萩原聖人演じる島田叡県知事が県民に禁止されていた芝居や酒、たばこを許したことに対し、不満を露にする吉岡里帆演じる比嘉凜とのやり取りを収めています。
©2022 映画「島守の塔」製作委員会
『長崎の郵便配達人』 8月5日(金)より全国公開中
イギリス王室に仕えマーガレット女王との悲恋が世間をにぎわせた、映画『ローマの休日』のモデルとも言われるピーター・タウンゼント。後に世界を回りジャーナリストとなった彼が日本で出会ったのは、16歳で郵便配達の途中に原爆の被害にあった谷口綾曄(スミテル)さんでした。
核廃絶を訴えた谷口さんを取材し、タウンゼントは一冊の小説を出版します。作中では、タウンゼントの娘が彼の著書を頼りに長崎の街を巡り、谷口さんとタウンゼントに想いを馳せます。
©坂本肖美 ©The Postman from Nagasaki Film Partners
『乙女たちの沖縄戦〜白梅学徒の記録〜』
反戦映画の名作として何度もリメイクされている『ひめゆりの塔』。しかし、沖縄戦争で動員された女学生は彼女たちだけではありませんでした。本作品では、沖縄県立第二高等女学校4年生56名の生徒から編成された白梅学徒を描きます。
たった18日の看護教育を受けただけの彼女たちは野戦病院に配属され、兵士の治療にあたります。そんな当時の状況を、実際に白梅学徒として活動した2人の生存者の証言と共に再現。ドキュメンタリーパートとドラマパートに分けられており、ドキュメンタリーパートの監督は原発事故の悲劇を描いた劇映画『朝日のあたる家』の太田隆文、ドラマパートの監督は『サクラ花〜桜花最後の特攻隊〜』や『祈り〜幻に長崎を想う刻(とき)』の松村克哉。
究極の“戦争体験映画”『野火』アンコール上映中
戦後70年にあたる2015年に初公開した、文字通りの“戦争体験映画”=塚本晋也監督『野火』。市川崑監督作品のリメイクではなく、大岡昇平の原作小説を映画化したものです。
「長年作りたかった」(塚本)という構想から20年の執念を実らせた“戦争映画”は、2014年ヴェネチア映画祭メインコンペティション部門出品、翌年全国83館で劇場公開されました。
その後も「『野火』を毎年終戦記念日に上映されるような映画にしたい」という塚本監督の思いに共感した劇場によって毎年アンコール上映が重ねられました。今年ものこすところ終戦記念日の8月15日限定で上映される劇場も多いので、急いで上映館をチェックして劇場に足を運んで欲しいと思います。
ちなみに、「何が言いたいのかよく分からない」というWEBコメントをよく目にするのですが、原一男監督『ゆきゆきて、神軍』なども合わせてご覧になると塚本監督が伝えたいことの一端がうかがいしれるかもしれません…。
「実際の戦争が激しさを増し、様々な思いが様々な形で渦巻く時代となりました。
戦争に近づかないためにできること──。そのことを考えるとき、まず、この『野火』を観ていただきたいと思います。 そして考えるきっかけにしていただけたらと思います。
最初の上映からまる7年を経過した8年目の『野火』。 共感してくださった劇場さんが、今年もこんなにたくさん上映をしてくださいます。改めて感謝と驚きを感じています。
劇場での体験は、特別なものになると確信します。
今年もよろしくお願いいたします。
塚本晋也」
(C)SHINYA TSUKAMOTO / KAIJYU THEATER