体感するメディア・アート──コロナ禍を経た現代ならではの視点満載!

第25回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展 9月26日(月)まで

第25回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展が2022年9月26日(月)まで東京・お台場の日本科学未来館を中心に開催されています。ここでは、日本科学未来館に展示されているたくさんの作品の中から、fy7dなりに“メディアとしての面白さ”という観点からピックアップしてリポートします。

アート部門大賞 太陽と月の部屋

“Sun and Moon Room” Production Teamによる、大分県豊後高田市に設立された「不均質な自然と人 の美術館」にある、自然と触れ合い身体性を拡張することをテーマにつくられたインタラクティブアートのひとつ。

 

本来は、鑑賞者の立ち位置をセンサーで検知、太陽の方角にある小窓だけ開口。室内は気象庁の天候情報を解析しその時々で最適な演出になるよう調整され、小窓が開くタイミングでピアノの音が鳴り、歩くことでピアノ曲が演奏される…といった仕掛けですが、本作ではそのテクノロジーは直接提示されず、あくまで太陽の光を切り取って鑑賞者の肌の上に直接届け、自然を感じさせるために用いられています。

「コロナ禍において、オンライン化やデジタル化が浸透し日常化する一方で、身体を通した体験が問い直される時代への応答となる本作の今日的重要性は高く、今後のメディア芸術表現の幅を広げていく可能性を含め、大賞として選出した」と田坂博子は授賞理由を明かしています。

アート部門優秀賞 あつまるな! やまひょうと森

山内祥太によるメディアパフォーマンス。いわば任天堂の『あつまれ どうぶつの森』のブラック・パロディともいえる作品で、見る者がゲーム画面を操作することにより展示空間でパフォーマンスする人間を操ることになります。

「あつまれとは言えなくなってしまった社会で加速した、ウィンドウを介したコミュニケーション。コロナ禍に端を発した応募作品のなかで、物理空間とサイバー空間を生きるリアリティを見つめた本作の、簡潔かつ確かなコンセプトが際立った。もしもゲームの裏で物理的な身体が世界を駆動していたとしたら。2つの世界を身体でつなぐことで明快に提示しつつ、画面の向こうの滑稽さや不穏さといった生々しいノイズを取り戻させる不敵なユーモア、それを緻密な作品設計が支えている」と竹下暁子は評しています。

アート部門 優秀賞 Augmented Shadow – Inside

韓国のMOON Joon Yongによる没入型インスタレーション作品。ひとりがステージ脇に置かれた懐中電灯様のデバイスを手にしてステージ上を照らすことで、あたかもそれらの影が照らされているかのように風景が展開。現実に浮かび上がる「仮想」の風景に現れた影の人々と出会い、影響しあいます。その様子を舞台外から観る者にとってもその様子を自身の物語として把握しているという、不思議な体験をしていることに気づくはず。

思い出すのは「映画でいえばゴダールの作品で登場人物が観客と対話しようとする瞬間のような、映像の未来を感じさせる作品である」とクリストフ・シャルルが評するとおりです。

アート部門 新人賞 三千年後への投写術

平瀬ミキによるメディアインスタレーションは、石に光源を当てたプロジェクションで、映像メディアの問題提起をした作品。

エンターテインメント部門 大賞 浦沢直樹の漫勉neo ~安彦良和~

マンガ家たちの仕事場や技術を伝えるNHK Eテレのドキュメンタリー番組。マンガ家たちの手元の映像を見ながら、浦沢直樹がゲストのマンガ家とともにトークを繰り広げます。本作では、安彦良和が『乾と巽 ─ザバイカル戦記─』を執筆する様子をピックアップ。ネームは描かずに下描きを始める、俯瞰の複雑な構図をアタリなしで描く、人物を描く際は眉毛から、ペン入れは筆で行うなど、通常のマンガ制作とはかけ離れた超絶技巧が次々と明らかにされています。

「雪深い夜のアクションシーン。飛び散る雪を下描きなしで、闇夜のベタを塗っていき現出させる。長くアニメーションを制作してきた安彦氏の頭の中では、映像化され、マンガとして最適なコマが選択され、描写されているのであろう。多くのマンガ家という神々の業に密着してきた本番組のうちでもこの回は大賞に相応しいまさに神回である」と時田貴司は舌を巻きます。

エンターテインメント部門 優秀賞 YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE from YAKUSHIMA

ヤクシマ トレジャー アナザー ライブ制作チームによるライヴパフォーマンス収録作品。360°の3Dデータとしてスキャンされた屋久島の空間に、フォトグラメトリーで捉えた色彩、深度センサーで読み取った演奏者の動き、360度立体音響を統合しており、単なる記録映像を超えた没入感に誘います。大型プロジェクター2台を使って湾曲した壁面に投写、鑑賞者を包み込んでいます。

「この作品には、まったく新しい領域にチャレンジしている視聴体験として評価が集まった。特に、屋久島の森という神秘的な場に似合わない(はずの)「データ」で「人間では物理的に不可能」な幻想的な世界への没入を可能にし、結果的に屋久島の神秘性を加速させているのがとてもおもしろい」と小西利行は述べています。

このほかにも興味深い展示がたくさんで到底1時間では回りきれません!体験型の展示も多いのでぜひゆっくり時間を取れるときに趣味の合う仲間と訪れてみて。

 

(取材・写真・文:遠藤)

[開催概要]

開催期間:2022年9月16日(金)〜26日(月)

会場:日本科学未来館(東京都江東区青海2-3-6)

サテライト会場:CINEMA Chupki TABATA、池袋HUMAXシネマズ、クロス新宿ビジョン、不均質な自然と人の美術館

入場無料

主催:第25回文化庁メディア芸術祭実行委員会