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「子供向けだからってフィルターに掛けない。選ぶのは子供」──森本晃司トークイベント

6月1日、代官山 蔦屋書店にて、「『ちょっとこわいメモ』刊行記念トークイベント」が開催されました。

登壇者は、挿絵を手掛けたアニメーション監督の森本晃司のほか、装丁を担当したcozfish(コズフィッシュ)の祖父江慎、藤井瑶、福音館書店の編集者・岡田の4名。前半は、岡田の進行で森本のトークが展開されました。

原作とアニメ化

森本は和歌山出身。全校で100人にも満たないような山奥の小学校に通いました。

 

「漫画は好きでよく読んでいましたが、まだアニメ自体あまりなかったし、アニメーターになるための進路というのもありませんでした。たまたま大阪に行ったとき“アニメーション科”があるのを知って、その後、大阪デザイナー学院に進んだんです。親には大学を勧められていくつかの大学に受験の申し込みはしたものの、当日は受験せずに本屋とかブラブラしてて。親には『受けたけどダメだった』って言ってました。この話するのはじめてかもしれない」

 

大阪での2年間で得た友人はみな実力者揃いで驚いたそう。

 

「自分では多少は絵が上手いと思っていたが、もっと凄い人がいっぱいいた。その後『マッドハウス』に入社することになり東京に来たら、さらに凄い人がいた。大友克洋さんと出会ったのはその後ですね」

原作のアニメ化

影響を受けたアニメは?と問われ森本がいちばんに挙げたのは『ガンバの冒険』。

 

「『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』なども一通り見ましたが、一番インパクトがあったのは『ガンバ』でしたね。『なんだこれは』と。ネズミに人が説得されるっていうね。絵の持つ力というか、ああいうキャラクターに言われると聞いてしまうパワーを感じました」

 

また、岡田との問答の中で、森本は名作について次のようにコメントしています。

 

「大友克洋さんの『幻魔大戦』のベガは、杉井ギサブローさんの影響を受けてますね。ぼくは『南総里見八犬伝』をもういちど見てみたい。坂本九さんのナレーションも良かったけど、もうフィルムが残っていないようで残念です」

 

原作とアニメーションの関係については、繰り返し次のように語ります。

 

「原作をそのままベタにトレースするのは、意味がないと思っていて。原作がありながらアニメーションで表現する以上、違うモノを見たいじゃないですか。大友克洋さん(『AKIRA』)や松本大洋さん(『鉄コン筋クリート』)も、同じものは見たくないと言ってくれました」

幼少期の記憶

岡田が森本に『ちょっとこわいメモ』の挿絵を依頼すると、すぐに返事が。岡田は驚いたそうですが、実は森本はもともと北野勇作の作品は読んでおり、同じく岡田が編集したSF作品『どろんころんど』(アニメ化も進行中)も面白いと思っていたと語ります。

 

「完全な異世界の話と言うよりも、近所にあるような世界観が好きなんです。『入っちゃダメ』と書いてあるところほど、入りたくなるでしょう。実はSFよりもそういう作品が好きなんです」

 

岡田は、「確かにちょっと煽られている感じもありますね」と応じます。

 

「“闇の表現”が得意。小さい頃からそういう所に居たからわかるんです。もっとも、真っ黒い世界って、あまり実在しない。月が出ちゃうと明るいですからね」

 

さらに森本は、自分が子供の頃に感じた不思議な感覚を、いまの子供たちにもこの作品から感じ取ってほしいと訴えます。

 

「ぼくは子供の頃、実は幽体離脱を経験しているんですよ。天井の木目がゆっくり回転している、動いていると錯覚する絵のような…。『死んだらどうなるのか?』『宇宙の先はどうなっているのか?』とかいった素朴な疑問は、大人になると忘れてしまうというか、優先順位が下がってしまう。多分年を取って死が近づくと、また優先順位が上がってくるんだと思うんです。ぼくもそうなので」

 

完成に至るまでに、森本はものすごい量のスケッチを描いています。その過程を、森本は“迷う”という言葉で表現しました。

 

「人に見えるモノは5%に過ぎないと言われています。95%が分かっていないのに、何を最もらしいことを言っているんだと。迷わない人は居ないはずなのに」

 

岡田もはじめて明かされたのが、まさに主人公キャタクターに最後まで“迷った”とのこと。

 

「キャラクターの小学四年生・こばやしゆうとくんが最後まで決まらなかったんです。アニメーションと同様、本の制作も共同作業です。ただ、今回はすでにテキストはできあがっているので、挿絵ではあまりキャラクターが立ってはいけないと思っていました。読み終えてはじめてわかるぐらいがいいなと。こばやしゆうとくんは、いい意味でフツーの人。『サザエさん』のマスオさんみたいな目立たないキャラクターというのは、案外難しいんです」

制作におけるアナログ×デジタル

トークイベント後半では、装丁を担当した祖父江慎と藤井瑶が加わりました。祖父江がアートディレクター、藤井が実作業を担当するというイメージだったそうです。

祖父江曰く、「よく見ると何か出てきそうですね。見えそうだけど見えないものが見えてくる絵」。

 

今回の挿絵制作では、アニメーションのセル画のように、背景とキャラクターを分けて描いてあとから合成する手法が採られています。鉛筆で手書きした絵が多く、デジタルで合成した後さらに書き加えたりするので、最終的な出力画の原画というものは存在しないのです。このようにする理由について、森本は次のように説明します。

 

「基本、ぼくの脳がアニメの思考方法なんですよ。後処理をデジタルでこうしたいと思えば、まず慣れたアニメーション用の紙に手描きで描いて、あとでデジタルで考えながら描き込んでいく。手書きと液晶タブレットを行ったり来たりしながら描くイメージですね」

 

祖父江が「2回書いているようなモノ」といえば、藤井は「曖昧なモノ、アナログの力強さをそのまま出したいと思いました。闇を描いた部分は鉛筆の筆圧で波打っていたりしてスキャニングに苦労しました」と明かしました。

デジタル版と紙の本、それぞれの表現

森本の慣れ親しんだアニメの表現と絵本のような紙の表現では色々な違いがあります。

 

たとえば、祖父江と藤井の方で、空のグラデーションを表現するためにあえてノイズを加えている点を挙げてくれました。

 

「アニメーションでは(十分な階調表現ができるため)綺麗にグラデーションが出るシーンでも、印刷物にするとトーンジャンプ(色割れ)しちゃうんです。それを回避するためにあえてノイズを加えることで、森本さんが意図したイメージに近づけています」

 

 

森本はちかく2004年の画集『Oレンジ』以来の作品集を計画中とのこと。

 

「こんどはオレンジじゃなくブルーにしたい」と森本が言うと、祖父江は「それは難しい。シアンは印刷にすると綺麗に出ないんです。本も欲しいから読む用に作って、絵を見る用にデジタル版も出すといいですよ」と森本にアドバイスしていました。

 

そのほかにも、3人は森本の想像力、表現力には舌を巻いたそう。岡田は、文章を絵にするときのギャップの埋め方が予想を超えていたと語ります。

 

また「ゴミの山の集積が、謎に上手い」と祖父江が言えば、「シルエットだけでなんとなくゴミの山に見えるのがすごい」と藤井。それに対しては、森本が次のように考えたとコメントしています。

 

「本文に“ピラミッド”とあるから、どうやってゴミを積むのか考えたんですよ。上からモノを落としていけばピラミッド状に積み重なるかもしれないけど、はたして子供がどうやって下からピラミッド状に詰むんだろうとか」

子ども向けだからと手を抜かない。むしろ最高のものを

最後に、表紙の絵の秘密が明かされました。

 

素材となったのは、挿絵用に描いたものの最終的に使わないと森本が判断したものの集積。

 

「事務所に伺ったら、はじめて見る絵が山のようにあったんです。森本さんの解釈でこれだけのものが作られていたのが凄い」(藤井)

 

デザイン化にあたり、それらたくさんのパーツが組み合わさっていることが明かされました。単色印刷したモノに、さらに着彩するこだわりよう。印刷所も薄い青は生かさないと思ってカットしたら、実はそのブルーは必要なパーツだった、なんていうことも。

 

「子供たちにとにかく最高のものを届けたいと言っていたよね」と祖父江がこだわりの理由を明かせば、「子供だからってフィルターに掛けちゃいけない。選ぶのは子供だからね」と森本。森本のみならず、装丁を担当した祖父江、藤井らの本書に懸ける情熱をも感じた2時間のトークイベントでした。

[作品情報]

『ちょっとこわいメモ』 1,430円(税込)

著者:北野勇作

画家:森本晃司

デザイン:祖父江慎、藤井瑶(cozfish)

発行:福音館書店

 

 

代官山 蔦屋書店では、6月16日まで2号館1階ギャラリースペースで「森本晃司フェア」を開催。サイン本のほか、ポストカードなどの販売や原画などを展示