「愛はタブーやスキャンダルの対象ではない」『青いカフタンの仕立て屋』監督メッセージ

『青いカフタンの仕立て屋』公開中

2022年カンヌ国際映画祭国際映画批評家連盟賞を受賞した『青いカフタンの仕立て屋』が6月16日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて公開中。このたび、先日閉幕したカンヌ国際映画祭審査員も務めたマリヤム・トゥザニ監督のインタビューと映像が届きました。

本作は前作『モロッコ、彼女たちの朝』のように、監督自身の体験が基になっているのか尋ねられたマリヤム監督は次のように語りました。

 

「前作のロケハン中、サレのメディナにある美容室を営む男性と知り合い、この出会いがインスピレーションになっています。彼と話しているうちに、心の奥に隠す本当の自分と外に見せる自分を使い分けていると気づきました。残念ながらモロッコでは、同性間の性的逸脱行為は刑法489条で罰せられ、6か月から最高3年の禁錮刑が課されます。同性愛がタブーであるだけでなく、刑事犯罪とみなされる社会なのです。異性愛者でないだけでひっそりと生きなくてはいけないのです。私もあえてそのことには触れないようにしました。でも、彼が隠す“何か”は本作の核になりました。この映画には"善人"も"悪人"も登場しませんが、私はどんな形でも批判を招かないように細心の注意を払って脚本を書き進めました」

 

ハリムの職業を美容師からカフタンの仕立屋に変えた理由については次のように明かします。

 

「カフタンは大人の女性の象徴で、少女時代の私にとって憧れでした。成人して初めて母から受け継いだカフタンをまとった時、これは次の世代へと物語を繋ぐ、貴重な品だと気づきました。1枚のカフタンが完成するまでに職人は数ヶ月を費やします。そうして完成したカフタンからは、着る人の心に職人の魂と完成までの物語が届くのです。この物語には手間暇かけて作られるカフタンがふさわしいと思いました。残念ながらモロッコではカフタン作りは衰退の一途を辿っています。技術の取得に長い時間がかかるのも原因のひとつでしょう。私が思うに、伝統工芸とは自分が何者かを教えてくれるDNAの一部であり、次世代に伝えるべき宝物です。速さが優先される現代社会ですが、私は伝統の手仕事を守る人々を見つめ、尊敬の念を作品で表現したかった。そんな理由から、本作の舞台を美容室からカフタンの仕立屋にしたのです」

 

前作同様に共同脚本を手がけた夫ナビール・アユーシュについては次のように語りました。

 

「執筆中は旅のようで、彼の視点を得られたのも幸運でした。人生を共有しているだけでなく、情熱も共有している存在です。彼はいつも鋭く知的な眼差しで脚本にコメントしてくれるので、私は自分自身とより深く向き合い、キャラクターやストーリーに厚みを持たせることができたのです」

 

このような映画をモロッコで制作することに勇気が必要ではなかったかについては、次のように明かします。

 

「表現しなくてはいけないこと、語るべきことがあるなら、勇気は関係ありません。欲望や愛は、タブーやスキャンダルの対象ではないのです。他の国々と同じようにモロッコも同性愛を禁ずる法律を廃止するために立ち上がらなくては。モロッコでは劇場公開 (2023/6/7公開)は必ずしも確約されていたわけでのなかったのでとても嬉しく思います(モロッコ国内成績確認中、フランスでは21万人動員、多くの国でトップ10入り)。本作はアカデミー賞のモロッコ代表であり、国の助成金を得て完成することができました。マラケシュ映画祭では審査員賞を受賞し、観客もポジティブな反応でした。そのこと自体が、アートを通して、もしかして通常は語られなかったタブーとされていることについて、もっと話し合い たいんだという強い欲求があるのだと感じました。アート、シネマを通してこういった扉を開き、それがこれから先の一歩に繋がっていくのだと思っています」

 

さらに、特定の性的志向が非難される社会において、人々の見方に影響を与えることができるかについて、ポジティブな意見を述べました。

 

「そうであってほしいと願っています。ハリムやユーセフの物語を通して異性愛者でない人々の存在を知り理解を深めることで、人々の視線が変わるかもしれません。人々の視線が変われば社会も変わり、法律も変わっていくでしょう。ハリムのような人々が声を伝えていくことが重要です。これは、男女問わずありのままの姿で人を愛する自由についての物語、真の愛についての映画なのです」

最期が迫る妻と夫が下した決断、その深い愛に涙

2021年モロッコの劇映画として初めて日本公開され大ヒットを記録した『モロッコ、彼女たちの朝』で、異国情緒あふれるパン屋を舞台に、心に孤独を抱えた2人の女性の連帯と希望を描いたマリヤム・トゥザニ監督が、最新作で描いたのは、カフタンドレスの仕立て屋を営む夫婦の物語。

 

カフタンドレスとは、結婚式や宗教行事などフォーマルな席に欠かせないモロッコの伝統衣装で、母から娘へと世代を超えて受け継がれる着物のようなもの。伝統を守る仕事を愛しながら自分自身は伝統からはじかれた存在と苦悩し真の自分を隠して生きるハリムとその妻のミナが本作の主人公です。

 

職人気質の夫を誰よりも理解し支えてきたミナは、病に侵され余命わずか。そこに若い職人のユーセフが現れ、3人は青いカフタン作りを通じて絆を深めていきます。

 

刻一刻とミナの最期の時が迫るなか、夫婦は“ある決断”をします。彼らが導き出した答えとは。その深い愛と選択に、思わず涙があふれ出すこと請け合いです。

 

モロッコの日常をスケッチしたコーランが響く旧市街、新鮮なタンジェリンが並ぶ市場や大衆浴場(ハマム)、男たちがミントティーを楽しむカフェといった“素顔のモロッコ”も見逃せない本作。伝統を守る仕立て職人の指先にレンズを向け、色とりどりの滑らかなシルク地に刺繍する繊細な手仕事をクローズアップし、一針、一針、想いを込めながらドレスを紡いでいくモロッコの伝統工芸のかけがえのない美しさも伝えてくれます。

 

『青いカフタンの仕立て屋』は、6月16日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国公開中。

 

[作品情報]

『青いカフタンの仕立て屋』

英題:THE BLUE CAFTAN

監督・脚本:マリヤム・トゥザニ

出演:ルブナ・アザバル サーレフ・バクリ アイユーブ・ミシウィ

2022年/フランス、モロッコ、ベルギー、デンマーク/アラビア語/122分/ビスタ/カラー/5.1ch

字幕翻訳:原田りえ  

提供:WOWOW、ロングライド 

配給:ロングライド 

公式サイト:https://longride.jp/bluecaftan/

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