東京都と公益財団法人東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京の共催によるクリエイティブな拠点、「シビック・クリエイティブ・ベース東京」の記者懇談会が6月23日に行われました。東京という都市が持つ課題をアートの力でどのように解決していくのか、このたびクリエイティブディレクターに就任した小川秀明が説明してくれました。
CCBTとは
シビック・クリエイティブ・ベース東京(CCBT)とは、2022年10月に渋谷に誕生したラボ、スタジオなどのスペース。アートとデジタルテクノロジーを通じて、人々の創造性を社会に発揮する(シビック・クリエイティブ)ための活動拠点です。
ワークショップをはじめとする様々なプログラムを展開することで、東京からイノベーションを生み出す原動力となる存在です。
背景にリンツの「アートテクノロジー社会」
小川は2000年よりオーストリアのリンツを拠点にメディアアートの創作活動を展開。なかでも、2007年から参加・従事しているアートとテクノロジーの世界的文化機関「ARS ELECTRONICA(アルス エレクトロニカ)」で、市民のための“文化インフラ”となるべく、学校では教えてくれない未来の学校があったなら、どんな「アートテクノロジー社会」を実現できただろうかを探求し続けています。
リンツは、ドナウ川流域のちょうど渋谷ほどの人口20万人の都市。そこでARS ELECTRONICAは1975年からこのような活動を公共機関として続けることで、いわば「蛇口をひねれば未来が出てくる」ように市民がアートに親しんでいるといいます。
1984年に冨田勲がパフォーマンスが行ったような「FESTIVAL」だったり、いわゆるコンペ部門「PRIX」、未来体験型教育施設となる「CENTER」、リサーチャーが考える未来のプロトタイプ「FUTURELAB」。東京オリンピック2020で話題となったドローンショーは、実はARS ELECTRONICAによって世界ではじめて2012年に行われていました。ドローン技術はPOLITICALなものではなくCULTURALなものとしてどう活用するかを考えた結果だったのです。
「東京を聖地化していく」
このARS ELECTRONICAのコンセプトを、世界中の人が集まる「Tokyo」、とくに「シブヤ」を中心にして社会実験を行ない未来に生かそう(未来『思考』)というのが、今回のプロジェクトです。
ARS ELECTRONICAの芸術監督、ゲルフリート・シュトッカーが「都市(まち)とは人類史上最も偉大な現在進行形の社会実験である」と述べたように、世界最大の人口がある大都市で、経済があり、超高齢化、もっとも安全で、食文化も豊かな東京は、まさに社会実験に最適な都市ではないか、というのです。
その複数の未来(Futures)を表現していく中で、デジタルとリアルが交錯した現代で、想定もしていなかった複数の選択肢を共有し、たとえば「監視社会をどう生きていくか」といった問題にも取り組んでいく…クリエイティブとテクノロジーを融合することで、東京を「ラボ」として活用していく原動力になろうとするものです。題して、「Co−Creative Transformation of Tokyo(CX)」…何のためのデジタルトランスフォーメーションなのかを考えるということだといいます。
CCBTはこうした活動の拠点となって、クリエイターや市民、企業も集まってアイデアを出しあう構想です。具体的にはミートアップしたり、ワークショップにかけたり、コンペ(アートインキュベーション)、ショーケース事業も展開していくとのことです。
岩井俊雄や橋本典久の「眼と遊ぶ」
そのショーケース事業の第1弾が、メディアアーティストで絵本「100かいだてのいえ」でも知られる岩井俊雄による「眼と遊ぶ」。映像の起源を探り、「そもそも映像とはどんなものだったのか」を視覚装置と特別展示によって実体験する場となっています。プログラムディレクターとして、映像メディアアーチストで武蔵野美術大学映像学科非常勤講師の橋本典久らも参加して、子どもも大人も一緒に楽しめる体験型の展示となっています。
アートがギャラリーや博物館だけのものという既成概念を脱却し、新しい社会実現していくような文化の土壌になること、イノベーションを触発するためのものになろうというCCBTの活動に、これから期待しましょう。
[開催概要]
「眼と遊ぶ」
日時:8月20日まで 13時〜19時 月曜休館
場所:シビック・クリエイティブ・ベース東京(CCBT)
東京都渋谷区宇田川街3−1 渋谷東武ホテル地下2階
主催:東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団
企画協力:東京都写真美術館