大友良英、「彼の音楽がなければ、私の人生は全く違うものになっていた」…ジョン・ゾーン生誕70周年イベント開催!

現代の音楽シーンを牽引し続ける音楽家ジョン・ゾーンの生誕70周年を記念し、フランスを代表する俳優・映画監督マチュー・アマルリック制作のドキュメンタリー映画『Zorn』3部作が日本初上映。池袋新文芸坐で開催される特別イベント「JOHN ZORN’S DOCUMENTARY & COBRA」で11月26日 (日)一日限りで披露されます。

どのカテゴリーにも属さない音楽家ジョン・ゾーン

吉田 隆一(バリトンサックス/作編曲家)は、『Zone』3部作について次のように語ります。

 

「例えば「ジョン・ゾーン」という名前を初めて聞いたという方がこの映像を観たら、どんな音楽家だと思うでしょう。多くの方はまず、既存のカテゴライズの何処に当てはまるのか と思案するはずです。サックス奏者として認識し、音楽とその楽器編成からジャズミュージシャンと認識するかも知れません。しかしそれはすぐに「?」に置き換わります。「作曲 家?プロデューサー?」というように混乱することでしょう。そしてその疑問は映像を見続けることで徐々に納得に変わります。即ち、スケールが大きく、とても魅力的な人物が、カ テゴライズ不能な音楽を作り続けているという唯一の事実を知るのです。かつて日本でのジョンに対する認識は、先の例で言えば最初の段階...即ち「アヴァンギャルドジャズ文脈」での理解にとどまっていました。しかし音楽家はもっと直感的にジョンの実質を見抜いていました。実際、ジョンの影響を強く受けたのはジャズミュージシャンではなく、ジョン同様にカテゴライズ不能な、1人1ジャンルのような音楽家ばかりだったのです。そして強いて言えばジャズよりもロックに寄っています。その理由も、映像を観ることで理解できるのです。この映像を通じて、ジョンの音楽が極めて身体的なのだと実感できるでしょう。ジョンの音楽のコンセプトの軸はポストモダン的な解体再構築です。その「構造」から、かつて(今も?)ジョンの音楽は観念的に語られがちでした。しかし実際の製作過程は思索的というより肉体的です。身体に負担をかけることで得られる効果こそが「ジョンの音楽」を生むのです。この映像には、マーク・リーボウが「楽譜を読める音楽家」と作業するようになったジョンを揶揄するシーンがあります。20世紀に於けるジョンの共演者、というより「共同作業者」達は、ジョンの音楽を「身体」で理解したのです。それこそがロック寄りに理解者が多い理由でもあるでしょう。ジョンの音楽には、ジャズ的な意味での「個人の自由」は (プロジェクトによりますが)さほどありません。しかし、肉体の律動により得られる「ロックの開放感」と同質のものがあるのです。それは時に高いハードルにもなります。映像終盤に登場する声楽家バーバラの苦闘がそれです。音に対してジョンが求める身体性が、音楽家がそれまで身体を用いて追求してきた蓄積とぶつかるのです。負担をかけることで音が身体性を得ると考えるジョンの、その課した負担が技術課題として立ちはだかります。非常にスリリングな共同「作曲」作業であり、闘いです。本作がジョンという稀代の音楽家を知る一助となるように願います」

[作品紹介]

『Zorn (2010-2016) 』(2016年/仏/54分) 

集団即興演奏のプロンプターとして、そして陽気なサックスプレイヤーとして、またNYのライブハウスの芸術監督として多面的に活躍するジョン・ゾーン本人の姿を捉えたドキュメンタリー。ジョン・メデスキやマイク・パットン、ネイト・スミスとのライ ブや練習風景、NYのサウンドスタジオでジョンのレコーディングに飛び入り参加する本作の監督でもあるマチュー・アマルリッ ク、日本の歌謡曲研究家としても知られたジョンの日本での足跡を辿るパートではヒカシューの巻上公一など、各国のアーティス トとジョンの交流が多彩な音楽とともに描かれる。

 

『Zorn II (2016-2018) 』(2018年/仏/56分) 

ここでは主にジョンの多様な作曲作品の魅力が紹介される。彼はフリーミュージックやグラインドコア、弦楽四重奏やアルカイックな女声合唱まであらゆる音楽表現を自在に操り、そのどれにも縛られず軽やかに音楽の世界を飛翔する。詩のように挿入されるジョンの人生や哲学から、彼の音楽を構成する一端が垣間見える。ギタリストのマーク・リボーやジュリアン・ラージ、2022年 にマッカーサー賞を授与したモリイクエも登場する。

 

『Zorn III (2018-2022)』(2022年/仏/78分) 

ピアニストのスティーブン・ゴスリングと、ソプラノ歌手バーバラ・ハンニガンの2人が、超絶技巧を必要とするジョンの新作歌曲に挑んでゆく過程をカメラが丹念に追う。自己のテクニックに行き詰まりを感じたバーバラの姿と、ジョンのジャズバンド仲間たちが野外で演奏している朗らかな表情が対照的に編集され、そこからジョンが生み出そうとしている新しい音楽の片鱗が見えてくるようだ。

即興演奏COBRAがスペシャルメンバーで実現

ユニークなことに映画上映はジョン・ゾーンによるライブと共に開催されることが条件。そのため今回の日本上映に際しては、特別にゾーンの許可を得て、巻上率いる「John Zorn’s Cobra東京作戦アニバーサリー部隊」の演奏が企画されています。

 

複数のミュージシャンのためのゲーム理論を応用したジョン・ゾーンの代表作”COBRA”に参加するのは、大友良英(ギター)、ジム・オルーク(シンセサイザー)、山本達久(ドラム)、そして巻上公一(プロンプター)ら総勢14名の豪華メンバー。

 

大友は次のようにコメントしています。

 

「これだけははっきり言える。ジョン・ゾーンの音楽がなければ、私の人生は全く違うものになっていたと思うし、彼の日本での活動がなければ、日本の音楽シーンは今とは全然違うものになっていたんじゃないかって。大袈裟でもなんでもなく、そのくらい彼の存在は私にとって大きい。この映画でジョンの音楽と出会い直すことは、自分自身の出発点を見つめ直すことでもあり、この先の未来をどう作って行くかの巨大な問いでもあると思っている。必見!」

 

ジム・オルークは、「過去50年にわたり、彼の先人たちと後人たちのためにたゆまぬ努力を続けてきたジョン・ゾーンは、誠実さ、決断力、革新性 の象徴であった。これらの映画では、彼のエネルギーに触れることができる」とコメント。

 

巻上は、「ジョン・ゾーンは、驚くべき決断力で、たくさんの音楽家に道標を作る天才の中の天才である。ジョンが日本の音楽シーンに与えた影響は計り知れない。ぼくは彼と同時代に生きていることに感謝したい。 最愛の友人であるジョン・ゾーンの70才の誕生日におめでとうを言おう」と祝福を贈ります。

COBRAとは

ジョン・ゾーンが考案した複数のミュージシャンのためのゲーム形式の即興演奏システム。プロンプターからの指示と、ミュージシャンによる合図、メンバー全体の意思疎通によって予測不可能な演奏が進行していく。システムの詳しい内容はゾーンの口伝により、限られたミュージシャンにしか伝えられておらず、今回はゾーンの意向により巻上公一がプロンプターを務め、この日限りの特別メンバーによるCOBRA東京作戦が開催される。

 

[イベント概要]

「JOHN ZORN’S DOCUMENTARY & COBRA」

開催日時 :2023年11月26日 (日)14:50 開場 / 15:10 上映開始 / 19:50 LIVE開始 / 21:20 終了予定

会場 :新文芸坐(東京都豊島区東池袋1-43-5マルハン池袋ビル3F)

上映作品 :『Zorn (2010-2016) 』『Zorn II (2016-2018) 』『Zorn III (2018-2022)』

映画上映後、「John Zorn's COBRA 東京作戦アニバーサリー部隊」生LIVE 

公式HP :https://zorn.my.canva.site/

公式Xアカウント:@johnzornproject

主催: MAKIGAMI OFFICE / JAZZ ART実行委員会 協力:boid

 

チケット情報:前売¥4,500/当日¥5,000(税込、映画3本+ライブ通し券のみ、途中入退場可) ◆チケット販売URL(10月17日(火) AM8:00より販売開始) https://zorn70.peatix.com/

 

●John Zorn's COBRA 東京作戦アニバーサリー部隊 出演者

大友良英 ギター

神田佳子 パーカッション

北陽一郎 トランペット

後藤篤 トロンボーン

坂口光央 キーボード

ジム・オルーク シンセサイザー

竹澤悦子 三味線

直江実樹 ラジオ

ナスノミツル ベース

松村拓海 フルート

山本達久 ドラム

吉田野乃子 サックス

吉田隆一 バリトンサックス

巻上公一 プロンプター

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