『オークション 〜盗まれたエゴン・シーレ』公開中
ナチス・ドイツによって略奪されたエゴン・シーレの名画「ひまわり」を巡る美術オークションの世界を描いたフランス映画『オークション 〜盗まれたエゴン・シーレ』が、1月10日(金)よりBunkamura ル・シネマ 渋谷宮下ほかで全国公開中。このたび、クリスティーズ ジャパン代表取締役社長の山口桂と、ウェブ版「美術手帖」編集長の橋爪勇介によるトークイベントが行われました。
本作を鑑賞した感想を橋爪は、「アート関係の映画はよく観るのですが、タイトルである“オークション”の世界に加え、個性豊かな登場人物たちにフォーカスしているところが面白い」と述べ、山口も「映画でオークションハウスの人間が登場すると大体あくどく、金まみれの人物として描かれることが多いのですが、本作では非常に誠実にオークショニアの仕事が描かれていて、とても嬉しかった。今まで見たどの作品よりも、オークションの世界に従事する人々がしっかり描かれている」と絶賛しました。
本作は実話を元に20人以上のオークション関係者に徹底リサーチ。「人物描写の大家」と評され、自身も画家を目指していたというフランスの名匠パスカル・ボニゼール監督による珠玉の脚本が高く評価されていますが、「オロールという虚言癖のあるインターンが出てきますね。彼女のような人はいませんけど(笑)個性的なキャラクターの人は多い。また主人公のオークショニア、アンドレの上司のように自分の顧客は渡したくないという人もいますし、アートロイヤー(アートの世界に特化した弁護士)にも誠実な人もいれば、そうでない人もいる」と山口は本作のリアルな描写に太鼓判を押し、橋爪も「オークションの世界を知らない人でもオークションをめぐる世界の一端が知れる作品」と頷きました。
「オークショニアに必要な素質は?」との橋爪からの問いに山口は「ひとつは学者的であること。その分野の専門知識がないと査定ができない。もうひとつは、やはり営業職的なところ。例えば売り主との交渉や、コレクターとの付き合いがあり、研究職と営業職が半々で、両方できなければならない」と答え、「スペシャリストでい続けるということは、やはり日々勉強で、新しい文献が出れば読むし、展覧会にも行く。これは基本中の基本。あと私が重要だと思っているのは誠実であること」と常に学ぶことと“嘘がないこと”を強調しました。「本作の冒頭に差別的な発言をするご婦人が登場しますが、あのような方との仕事でも、私なら絶対同調しません。彼女の発言に同調して、ご機嫌をとるようなスペシャリストは、やはりスペシャリストとして長く続かないと思う」とオークショニアとしての矜持を持つことの大切さを述べました。
さらに「通常オークション会場には100人から200人の人がいて、電話やインターネットで世界中の人が参加し、今はオンラインでストリーミングもされる。その多くの人たちを飽きさせず、もう1回、もう2回とビッド(入札)をとる技術は非常に難しく、私がクリスティーズインターンの1年目の時にはロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの俳優から、人々の心を自分に向けさせるレクチャーを受けた」と明かしました。「高額のオークションになると2時間以上の長時間となり、手を挙げる方も売る方も緊張する。その緊迫した中で熱を保ち続けるには、ちょっとしたユーモアも必要で、オークショニア自身がチャーミングで人を惹きつける魅力があることが大事」とスターオークショニアには人格的に魅力がある人が多いと解説しました。
世界の美術展入場者数ベスト10ランキングでも日本の展覧会はランクインするほどアートファンが多い日本ですが、「アートを見に行く人は多い割に、アートを買う人は少ない印象がある」という話題に対し、山口は、「5千円の作品でもいいので、アートと暮らすこと」をすすめます。そして本作でシーレの絵が見つかった家に住む青年マルタンからの最後の手紙のシーンについて触れ、「マルタンはシーレの絵と知らずに、長年あの絵と暮らしてきたんですよね。だから最後の彼の手紙に何かアートに対する心が現れている。そこには投機的に絵を買った人にはない、“アートと暮らした人生”が滲みでている。あのシーンがこの作品の最も素晴らしいところ」と締めくくりました。
始まりは、競売人に届けられた一通の手紙
パリのオークション・ハウスで働く有能な競売人(オークショニア)アンドレ・マッソンは、エゴン・シーレと思われる絵画の鑑定依頼を受けます。
シーレほどの著名な作家の絵画はここ30年程、市場に出ていない。当初は贋作と疑ったアンドレでしたが、念のため、元妻で相棒のベルティナと共に、絵が見つかったフランス東部の工業都市ミュルーズを訪れます。
絵があるのは化学工場で夜勤労働者として働く青年マルタンが父亡き後、母親とふたりで暮らす家でした。現物を見た2人は驚き、笑い出します。それは間違いなくシーレの傑作だったです。
思いがけなく見つかったエゴン・シーレの絵画を巡り、さまざまな思惑を秘めたドラマが動き出します…。
『オークション 〜盗まれたエゴン・シーレ』は、1月10日(金)よりBunkamura ル・シネマ 渋谷宮下ほかで全国公開中。
[作品情報]
『オークション 〜盗まれたエゴン・シーレ』
原題:Le Tableau volé
監督・脚本・翻案・台詞:パスカル・ボニゼール 『華麗なるアリバイ』
出演:アレックス・リュッツ、レア・ドリュッケール、ノラ・アムザウィ、ルイーズ・シュヴィヨット
2023 年/フランス映画/フランス語・英語・ドイツ語/91 分/シネマスコープ/カラー/5.1ch
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ/ユニフランス
配給:オープンセサミ、フルモテルモ 配給協力:コピアポア・フィルム
©2023-SBS PRODUCTIONS
公式 HP:http://auction-movie.com
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