『花様年華』のようなロマンティックなカラーリング『クィア/QUEER』秘話

『クィア/QUEER』5月9日より公開中

ダニエル・クレイグ主演、『君の名前で僕を呼んで』ルカ・グァダニーノ監督の最新作『クィア/QUEER』が、5月9日(金)より新宿ピカデリー他にて全国公開中。このたびルカ・グァダニーノ監督が明かす撮影秘話、衣装を手掛けた世界的デザイナー、ジョナサン・アンダーソンのインタビュー、新場面写真が公開されました。

ルカ・グァダニーノが映画監督として長年目指してきたことの一つが、チネチッタ撮影所で映画を監督すること。同撮影所は、99 エーカー(約 40 万㎡/東京ドーム約8.6個分)もの広さのローマにある伝説の撮影所で、1937年にオープンしてから、フェリーニ、ロッセリーニ、ヴィスコンティ、レオーネ、ベルトルッチ、コッポラ、スコセッシなどによ

る、3000 本以上の映画が撮影されました。

 

「僕は、『クィア/QUEER』のイメージやセットは、バロウズの目と心を通して映し出されるものでなければならないと考えていた。彼の小説の映画化について考え始めて 30 年が経っても、まだバロウズの原作に表現されている苦悩や欲望、イメージを反映する人工的な場所として、メキシコシティやパナマシティやエクアドルを再現することにこだわっていた」とグァダニーノ監督は振り返ります。

 

映画の冒頭のメキシコシティの章に関してグァダニーノ監督は、リーとユージーンが恋に落ちる街角、バー、そしてホテルの部屋などを、ジョン・ヒューストン監督の映画『黄金』(48)のように、ハリウッドのバックロットで作られた、1950 年代の撮影所的な雰囲気にしたいと思ったといいます。この章の屋内シーンには、登場人物の孤立感や断絶感を強調する視覚要素として、意図的に非対称になっているセットを取り入れ、登場人物の心の中を映し出す風景を目指しました。

 

また、物語からにじみ出る鮮やかで明確な官能さを反映した色を選んだと語る通り、リーとユージーンが酒を飲みに行くバー「シップ・アホイ」や、リーがバーで出会った男性と向かう安ホテルの部屋などに、登場人物の熱望を反映するような、ネオンライトの光が溢れ、アール・デコ時代の色褪せた威厳が漂う空間を作り出しました。グァダニーノとバイシは、ウォン・カーウァイの『花様年華』(00)に見られる、飽和状態で激しいロマンチックさをたたえた色を、これらのシーンの参考にしたといいます。

 

官能的で催眠をかけるような視覚様式は、タイ生まれの撮影監督サヨムプー・ムックディプロームの、うっとりさせるようなカメラワークでさらに強調されます。ムックディプロームは、以前にもグァダニーノとタッグを組んでおり、『君の名前で僕を呼んで』『サスペリア』『チャレンジャーズ』 でも撮影監督を担当。アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の実験的で超越的な作品『MEMORIA メモリア』(21)や『ブンミおじさんの森』(10)などや、ポルトガルの映画監督ミゲル・ゴメスの様式化された歴史映画作品の撮影を担当することで、キャリアをスタートさせた。最近では、ロン・ハワード監督の『13人の命』や、M・ナイト・シャラマン監督の『トラップ』の撮影監督を務め、今日最も引っ張りだこの撮影技師です。

 

1950 年代の衣装を再現するために、親しい友人で、頻繁に一緒に仕事をするジョナサン・アンダーソンと再びコラボ。アンダーソンは、アイル

ランド生まれのファッションデザイナーで、自身のブランJ.W.Anderson や複数の高級ブランドのクリエイティブディレクターを務めています。

 

アンダーソンは、『チャレンジャーズ』をきっかけに映画の衣装デザインの世界に。

 

「1950 年代の男性は、服を長い間キープするという習慣がなかった。外国人としてメキシコで暮らす、ウィリアム・リーのような男性は、特にそうだった。『クィア/QUEER』は、1950 年代の男性服に潜むフェティシズムの概念に焦点を当てている。そこには微妙なニュアンスがあるんだ」とアンダーソンは語ります。

 

映画の序盤では、うだるような暑さの、メキシコシティの夏の街並みを舞台に展開します。リーは、淡い色の麻のスーツ、パナマ帽、そして現代風のサングラスを身につけて街をさまようのですが、アンダーソンは、「僕は彼を、『乱れのあるしゃれ男』と解釈した。からだが衣服に影響を与え、服が、第2の皮膚として彼のからだの一部になったように思えた。リーの服のスタイルは、究極的には、彼の身のこなし方と関係がある。ユージーンのスタイルは、少し堅苦しく、同時にヒッピー的で若い。それが性的な魅力を醸し出しているんだ」と明かし、リーの、しわくちゃのヘミングウェイ風スタイルとは対照的に、ユージンには、より垢抜けた大学生風の格好をさせ、2 人の男の年齢、人生における立場、そして心理がいかに異なっているかをはっきりと表現しました。

 

終盤では、リーとユージーンが、幻のヤヘを求めてジャングルへ。その時の 2 人の服は、密林の湿気で汚れています。

 

「物語が進んでいくにつれて、服はどんどん汚く、くたびれていかなければならない。彼らは、ジャングルの中で服を洗濯できないからね。これを強調するためには、それぞれのキャラクターには、衣装を1着しか準備しなかった。そうすることで、ジャングルを冒険する中で、服がどうやって劣化していくかを想像することができた」とアンダーソンはこだわりを明かしています。

孤独な駐在員が美青年と出会い…

舞台は、1950年代メキシコシティ。小さなアメリカ人コミュニティで、孤独な日々を過ごすアメリカ人元駐在員リー(ダニエル・クレイグ)は、若く美しい青年ユージーン(ドリュー・スターキー)と出会い、次第にのめり込んでいきます。

 

 

 

強い日差しが照り付ける乾いたメキシコの地、汗とテキーラで汚れたベージュのツーピース、バーで交わされる熱い視線、そして孤独な家に残されたタイプライターとタバコの吸い殻の山……。

 

 

50年代アメリカのビート・ジェネレーションを代表する作家ウィリアム・S・バロウズの自伝的同名小説を、ルカ・グァダニーノが繊細かつ艶めかしいタッチで描き出します。

 

『クィア/QUEER』は、5月9日(金) 新宿ピカデリー 他 全国ロードショー。

 

[作品情報]

『クィア/QUEER』

原題:Queer

監督:ルカ・グァダニーノ(『君の名前で僕を呼んで』、『チャレンジャーズ』) 

出演:ダニエル・クレイグ、ドリュー・スターキー 他

2024年/イタリア・アメリカ/カラー/ビスタ/5.1ch/137分/字幕翻訳:松浦美奈  映倫区分:R15+

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