浅野順子「一目惚れする瞬間って、色気かしら」アニタ・パレンバーグのドキュメンタリー映画『アニタ 反逆の女神』トークイベント

『アニタ 反逆の女神』公開中

ローリング・ストーンズのミューズとして知られるアニタ・パレンバーグのドキュメンタリー映画『アニタ 反逆の女神』が、10月25日(土)より新宿K’s cinema、アップリンク吉祥寺他にて公開中。この度、公開初日舞台挨拶が行われました。

新宿K‘s cinema では、公開初日の12時20分の回上映終了後に、プロデューサー、ディレクターの立川直樹さんと、画家、モデルの浅野順子さんによるトークイベントが行われました。

 

立川さんと浅野さんは1歳違いの同世代。

 

立川さんが「あれを(映画の中のような事を)やっていたら、写真週刊誌がすぐ撮ったり、今なかなか不自由な時代になっているので笑。そう考えたら、その時代をここまで見事に切り取った映画ってすごいなと思う。たぶん女性監督2人が撮っているからか、質問の答えとか、男性の監督だったらこうは撮れないなと思うところがあった。それは見どころです。そして編集が針仕事をするように細かいと思う。どうでしたか?」と浅野さんに聞くと、「私もそうなんですが、彼女は自由に人生を、何も後悔せずに生きた。その彼女の生き様がよかったです」と語ります。

 

立川さんはまた「ロックンロールをやる、ファッション、映画、アートをやるというと、それは僕らの世代では反社会的というか、一般社会でもう生きていく気がないんだねという事だったよね」と当時の状況を語りました。

 

アニタをいつ知ったのか?という立川さんの問いかけに浅野さんは「実はあまりよく知らなかったんです。この作品で状況も含めてよくわかったかな、という感じです。それまでも女性の存在というのは、いろいろ聞いていたけれど、アニタの存在をあからさまに知ったのは、今回初めてです」と答えました。

 

立川さんが「アニタ・パレンバーグ、マリアンヌ・フェイスフル、ニコが、僕はエキセントリック・ビューティーの極みだと思っている」と話すと「男の生き方とは違いますね。女の人というのは途中で妊娠したり、いろいろな覚悟を持って生きなければならない事がどんどん増えてくる。彼女の生き方は、子供の事、相手の事も考えているのだと思うが、自分の生き方に熱心で、自由に生きられたのではないかと思う。でも結果後悔がなく、あの様に生きられたというのは、人生にとってとても素晴らしい生き方をされたなと思います。なかなかできないですからね」と浅野さんは答えました。

 

 「存在が女優とかモデルであるのを超えてしまって、いわゆるアイコンという言い方が、これほど似合う人はいないですね」立川さんの問いかけに浅野さんは「そうですね。最後のファッションショーに出てきた顔なんか、自信に満ち溢れていて、素晴らしいなと思います。最後が良ければ、いいんじゃないかなと思いました、自分の人生を自分で恥じることはないと思います」と返しました。

 

アニタは美容整形が嫌いだということに立川さんが触れると、浅野さんも「私もダメです。まあ痛いのが嫌いだということもありますが笑」と共感。

 

「MTVが 81年に出て来てから後のロックの人たちって、ミック・ジャガーやキース・リチャーズがメイクしたのと、いわゆるビジュアル系の人たちがメイクしたのと、全然違うんですよね」という立川さんに、「そう思います」と浅野さんが答える。「この映画を見ていて、何しろ覚悟っていうのがね」というと浅野さんも受けて「そうですね、覚悟があれば、最後には笑えると思う」と話します。

 

映画の作り方に関して立川さんは「描かれる時代は古い、60 年代とか 70年代なんだけど、作り方は全然今の時代とコミットする作り方をしているところがあって、すごくうまいと思う。勇気を貰えると思う」と語り、浅野さんは「若い方にもどんどん見てほしいですね。ただ勘違いさえしなければ、ですが」と笑いました。

 

また「同世代の女性に聞きたいんだけど、ブライアン・ジョーンズに会って、(アニタが)ひとめぼれするじゃないですか。ひとめぼれする瞬間って、どういう事が一番大きな要素なんですか?」との立川さんの問いかけに「なんなんだろう、やっぱり色気かしら。その人が持っている…私もブライアン・ジョーンズが一番好きだったのですが。自分の子供にもみんな“ブライアン・ジョーンズカット”にしていたぐらいなので。彼がもし今でもいたら、音楽性も全然変わっていたのではないかと思う。そういう芸術的な部分で、アニタは見抜いたんだと思います。他のメンバーとは違う存在だった」と浅野さんは語ります。

 

 「アンドリュー・ルーク・オールダムがミック・ジャガーをメインにしてやって行こうと決めた時に、少し芸能系のノリが入ってきて、ミックもその辺は心得ていたんだと思う。ブライアン・ジョーンズの、少し世の中に背を向けた感じは、ピンク・フロイドのシド・バレットと少し似ている感じがする。そのブライアンのあと、アニタはキースに行くじゃないですか。周囲に何を言われてもさらっとそうする」と話す立川さんに「自分の生き方に正直なんだと思いますね。そう思われようが、そういう事は彼女には関係ないんじゃない?すごいですね」と浅野さんは笑いました。

 

アニタのすごい点として「女優になった時、演技のセンスが従来の女優のセンスじゃないところがあります。表に出た時に自分をどう見せるかっていうのを、浅野さんも考えると思うんですが、どうですか?」とういう立川さんの質問には、浅野さんは「あまり考えない。もうこのままです。いいか悪いかわからないけれど、このまんま」と爽やかに答えました。

 

続いて立川さんからの「映画は何が好きなんですか?」という問いに「息子(浅野忠信さん)の映画かな?」と浅野さんは答え、最近作の映画『レイブンズ』が面白いという話題に。「今、日本の俳優さんの方がロックなんだよね」という立川さんに、浅野さんは「そうですね。リアルな感じがしますよね」と返答。日本のロックバンドの話、昔の女優の話、アニタと関係の深かったマリアンヌ・フェイスフルの話等、尽きぬ話題で盛り上がり、楽しいトークは終了しました。

アニタ・パレンバーグとは?

1942年生まれのイタリア系ドイツ人のモデル、俳優、ファッションアイコンであり、1960-70年代のロック文化における象徴的存在。多言語を操り、反体制的で自由奔放。彼女は、自身のペルソナとクリエイティビティで時代を体現した先駆者。

 

彼女がいなければ、ローリング・ストーンズのイメージも、ロックとファッションの結びつきも大きく違っていたかもしれません。周囲からは「ミューズ」「It Girl」「ロック界のワルキューレ」と称されました。2017年没。

 

『アニタ 反逆の女神』は、10月25日(土)より新宿K’s cinema、アップリンク吉祥寺他にて公開中。

 

[作品情報]

『アニタ 反逆の女神』*第 76 回カンヌ国際映画祭クラシック部門正式出品

監督:アレクシス・ブルーム/スヴェトラーナ・ジル

出演:アニタ・パレンバーグ/キース・リチャーズ/マーロン・リチャーズ/アンジェラ・リチャーズ/ケイト・モス/フォルカー・シュレンドルフ/スタニスラス・クロソウ

スキー・ド・ローラ/サンドロ・スルソック/ジェイク・ウエバー/ブライアン・ジョーンズ/ミック・ジャガー/マリアンヌ・フェイスフル/ジェーン・フォンダ/ジェイムズ・フォックス/アレン・ギンズバーグ/ジャスパー・ジョーンズ/アンディ・ウォーホル

声の出演:アニタ・パレンバーグ:スカーレット・ヨハンソン

キース・リチャーズ:本人

マリアンヌ・フェイスフル:本人

2024年/アメリカ/英語・フランス語・ドイツ語/113分/1.78:1/

原題:CATCHING FIRE: The Story of Anita Pallenberg/©2023 Brown Bag Productions, LLC/日本語字幕:福永詩乃