『Tokyo Melody Ryuichi Sakamoto』4K レストア版公開中
1985年制作の坂本⿓⼀の幻のドキュメンタリー『Tokyo Melody Ryuichi Sakamoto』 4K レストア版が公開中。このたび、2⽉8⽇(⽇)109 シネマズプレミアム新宿で本編上映後に⾏われたトークイベントに岡村靖幸、藤原ヒロシが登壇しました。
この⽇のゲストは、80年代から現在まで“東京”を牽引してきた⼆⼈のレジェンド。
岡村が「ヒロシさんとはドキュメンタリー好き仲間として、LINE仲間として、よくドキュメンタリーの話をしているんです」と語る通り、⾳楽のみならずドキュ メンタリーの視点からも鋭いコメントが次々と⾶び出します。
「すごく貴重な映像ですよね」と語る岡村は、かつて発売されていたDVD版で本作を鑑賞したことがあったとのこと。
「坂本さんの『⾳楽図鑑』というアルバムのレコーディング⾵景や、当時の東京の⾵景もあって。今だったらこれオッケーが出るのかな、というような映像や、スタジオでご飯を⾷べているシーンなど、いろんな映像がすごく⽣々しく当時から⾯⽩いと思っていました」
藤原は今回はじめて映画を鑑賞したとのことで「僕はすごく当時のことを思い出しました」と語ります。
「僕は坂本さんとは世代が離れているんですが、82年から東京にいた。坂本さんとお仕事を⼀緒にしたことはなかったんですが、同じ空間にいることが結構あったんです。映画には、当時の⾳楽の作り⽅が映し出されていて、特に(シンセサイザーの)フェアライトとか、そういうもの が出てきて懐かしかったですね」
教授との接点について藤原は次のように述懐します。
「僕は82年にはDJをしていたので。夜、DJをしているところに坂本さんがお⾒えになったり、というのはたまにありました。ただ、⾳楽の話をしたことはほとんどなくて、ニューヨークでいつも⾏くお蕎⻨屋さんにもよくいらっしゃっていたので、そこで会うと挨拶程度にお話をさせていただいていましたが、今思えばもう少し⾳楽の話を聞いておけばよかったと思います」
本作では、教授の⾳楽活動を映し出しているだけでなく、80年代の東京の⾵景を映し出したポートレートとなる。「秋葉原や新宿アルタの前の映像も、今とは全然違う価値観のものがワーッと置いてある。⽵の⼦族やロックンロール族みたいなのも出てくるし、賑々しくて。約 40 年前の映像と考えると、とても感慨深かったです」と岡村が語れば、藤原も「僕は82年に東京に出てきたので、この頃はオンタイムでしたし、とても新鮮でした。初めて⾒るような⾵景もいっぱいあって、懐かしさもあったし。映画の中で坂本さんが“政治の時代は過ぎ去って”とおっしゃっていたと思うんですが、そうした70年代を経て、坂本さんの⽬から⾒た80年代の東京の空虚さみたいなものが現れているのかなと思いました」と振り返りました。
そんなふたりの⽬を引いたのは、スタジオの機材。世界初のサンプリング・マシンとして知られる「フェアライト(Fairlight CMI)」は、当時1200万円から1400万円もするような超⾼額機材。藤原も「これがちゃんと映像に残っているというのはすごいですよね。僕は当時からDJだったので、サンプリングというもの⾃体は知っていたんですけれど、実際に⽇本に⼊ってきた時に初めて⾒たのがフェアライトだったんです。そのあと85年頃、フェアライトじゃないんですけど、エミュレーターという機材を知り合いのバンドが購⼊して、それが720 万円だったんですけど貸してもらって、YMOのリミックスを作ったこともありました。当時、サンプリングというものがものすごく神々しいものだったんです」と語ります。
それだけに、坂本がスタジオの中で⾷事をしているシーンには驚いたという。「1400万のフェアライトの前にある卓の上で、出前でとった⾷事を⾷べていましたもんね。普通⾷べないですよ」と藤原が話すと、岡村は「あの卓だって何千万とします からね」と同意。「俺たちが同じことをやったら怒られますよ」といった⼆⼈の応酬に会場はドッと沸いていました。
当時、サンプリングの登場により、「こんな機材が出たらオーケストラがいらなくなるのではないか」「⽣のアーティストはいらなくなるんじゃないか」といった具合に危惧する⼈も多く、⾳楽業界で⼤きな論争が起こったそう。「今のAIと近いなと思うんです」という藤原の考察に、「僕もそれを思った」と同調する岡村。
「フェアライトとか、最新のテクノロジーとか。ああいうコンピューターにいつも⽬を光らせていた坂本さんが、今の時代に⽣きていたらどういう⾵にAIと対決していたのかと考えると興味深いです。坂本さんは、テクノロジーやコンピューターの進化は⽌められないけど、その途中で⽣まれるエラーやノイズ、綻びみたいなもの興味があると⾔っていて。今⽇、ヒロシさんと話したかったのは、まさにパンクミュージックとかヒップホップっていうのは、⾳楽教育を普通に受けた上で誕⽣したものではなくて、エラーやノイズ、綻びみたいなものだということ。理論的なものじゃなくて、ちょっと異形のものだったから⾯⽩かったし、スリリングだった」
それを受けて、藤原も次のように応じます。
「僕もそういう教育を受けてたわけでもないし、いまだに⾳符は読めないので。⾳楽の理論というのはほとんどわから ない状態でパンクやヒップホップに出会って今がある。坂本さんはそれとは真逆で、すごくアカデミックなところから来て。アカデミックな⼈たちというのは、パンクなりヒップホップなり、こういったサンプリングに対してアンチだった⼈が多かったと思うんです。でもその綻びだったり、ノイズに興味を持って、真摯に向き合ったというのは、すごく坂本さんらしい、いいところなんじゃないかなと思います」
岡村は教授の⾳楽性について次のようにコメントしています。
「映画⾳楽に限らず⾳楽というのはある程度予想された部分と、予想されているという前提でそれを裏切るカウンターパンチを⼊れる部分とのバランスで出来上がる、という⾵におっしゃっていましたが、これはよく分かります。坂本さんの⾳楽はそのバランスが絶妙。ここでこう⾏くかみたいなメロディがたくさんあるし、前衛的な部分もある。本当に感動的な美しいメロディもあるし。物を作ってる⼈はみんなそこを考えていると思います。だからその、分かりやすい部分と、ここはちょっと分かりにくくしておこうとか、そういうバランスはどのアーティストも、物を作る⼈なら考えてる ことなんじゃないのかなと思うので、いい⾔葉だなと思いました」
本作を⼿掛けたのは、ニューヨーク出⾝のマルチメディア・アーティスト、エリザベス・レナード。外国⼈である彼⼥の⽬を通じて、教授の素顔や、東京の⾵景を映し出しています。本作について岡村は次のようにコメントしています。
「ドキュメンタリーだとよくコメントが⼊ったり、ナレーションが⼊ったりと説明が⼊るものですが、この映画はフランス映画っぽいですよね。ロードムービーみたいな、沈黙の部分もたくさんあって。間の取り⽅とかも普通じゃない感じで、ゆったりとして⾒ることができた。まさに外国の⽅が撮った感じがすごくしました」
藤原も次のように応じます。
「実際、僕らが全く気づかなかった魅⼒や、良さがすごく切り取られてると思うんです。当時も分からなかったし、今でも本当の意味でこの良さを理解しているのか、⾃分でも分からないですが、今でも海外のアーティストが⽇本に来てPVを撮ったりしていて。なおかつこういう80年代の味付けにわざと加⼯したりもしているじゃないですか。そういう意味では彼らにとってすごく魅⼒的なステージなんだろうなと思います」
そんな教授の魅⼒についてあらためて「僕は⼀貫して坂本さんに関して思うのは“ルックスがいい”ということ」と評した岡村。
「カッコいいというのは⼤きかったと思います。化粧をしたり耽美的なことをしても似合う⼈だったから、本当に華があった。だからよく雑誌の表紙にもなっていましたし、特に80年代なんていろんなコマーシャルに出ていたじゃないですか。笑いもできたし、カッコいいこともできたし、実験的なこともできた。まさにトリックスター的な部分もあったと思います」
何度観ても新たな発⾒が⾒つけられる本作の注⽬のポイントについて岡村は次のように指摘します。
「映画では⼤事な⾔葉をいろいろと⾔っているんですが、1回⽬は⾒逃してしまうこともあります。でも何回か⾒ていくうちに、こんなこと⾔っていたんだと。そうした⾔葉を聞きながら映画を⾒ると、84年っていう時代も炙り出されるし。坂本⿓⼀さんが、YMOが終わった時にどういう⼼境だったかっていうのも炙り出されている。その前は学⽣運動の時代で、政治の季節は終わったということも⾔っていましたし。そういう⾔葉をちゃんと聞きながら、追いかけるのも⾯⽩いと思います」
⼀⽅の藤原は次のように応じます。
「やはり僕はこの映画と同世代なので、懐かしい、という⾒⽅をしてしまっているんですよ。1回⽬に⾒たときは懐かしいという気持ちだったんですけど、実際はそうじゃなくて。違う視点で⾒て、新しいものが発⾒できるんじゃないかなと思います。それと坂本さんの発⾔ですよね。坂本さんの⾔葉の中に、新しい発⾒や、今につながる何かが隠されているんじゃないかなと思います」
80年代の東京、そして坂本龍一
本作品は、1984 年に写真家でもあるエリザベス・レナード監督とフランス国⽴視聴覚研究所(INA)が制作したドキュメンタリー。
このわずか 60 分余りの 16mm フィルムには、スタジオでのレコーディング⾵景やインタビューを通して、30 代だった坂本が価値観、⾳楽哲学、⽂化について語る姿が収められています。
また、坂本が⾳楽を担当・主演した⼤島渚監督作『戦場のメリークリスマス』(1983)、YMO の散開コンサートやプロモーションビデオの映像も含まれ、さらに、かつて新宿にあったアルタや渋⾕のスクランブル交差点など、1980 年代の東京の⾵景が⽣き⽣きと映し出されます。
「坂本の⽬と、彼のポートレートを通して⾒た東京の⾳」(レナード監督)を体感することができる貴重な作品。
「すべては同時代的であらざるを得ない」という坂本の⾔葉通り、この映画は“1984 年 5⽉”という時の坂本⿓⼀、東京、⽇本を切り取って差し出してみせます。
『Tokyo Melody Ryuichi Sakamoto』4K レストア版は公開中。
[作品情報]
『Tokyo MelodyRyuichi Sakamoto』4K レストア版
監督:エリザベス・レナード
出演:坂本⿓⼀、⽮野顕⼦、細野晴⾂、⾼橋幸宏
撮影:ジャック・パメール
編集:鈴⽊マキコ
⾳楽:坂本⿓⼀
録⾳:ジャン・クロード・ブリッソン
製作:ミュリエル・ローズ
制作会社:INA、KAB America Inc.、KAB Inc.
1985 年|62 分|フランス、⽇本|⽇本語、フランス語、英語
配給:エイベックス・フィルムレーベルズ
©Elizabeth Lennard







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