ソニーが嗅覚に着目──将来、リモートでも香りが脳に直接働きかけ、記憶を呼び覚ます時代に!?

ソニー、におい提示装置「NOS-DX1000」を2023年3月に発売

視覚・聴覚から、嗅覚へ──ソニーが医療・研究機関と連携して研究開発するテーマとして、本能や感情、記憶に直接働きかけるといわれる器官に着目した製品を、来年2023年春頃発売予定であることを発表しました。

その製品とは、におい提示装置「NOS-DX1000」(価格オープン、実勢価格230万円前後)。当面は研究用途で、これまで50年以上行われてきた試薬と人手による装置を測定器とアプリでデジタル化(DX化)するもので、よく空気清浄機などに備わっている臭いを測定するものではありません。

ソニーでは、2020年までスティックタイプのアロマディフューザーAROMASTICを展開してきましたが、今回の製品はそこで培ったにおい制御技術を進化させたもの。強い力で臭い成分を封じ込め必要なとき開放するアクチュエーターを使った新開発Tensor Valveテクノロジーと、すぐにその残り香を除去する気流装置で構成されています。

「なぜソニーが?」という疑問ですが、5月に発表した同社のビジョン「エンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)」にヒントが。世界中の人と社会に、テクノロジーの追求と新たなチャレンジによって、「感動」と「安心」を提供するとあり、映像や音と同様、作り手の意図を「嗅覚」という器官を通じて伝達することを視野に入れているのではないかと思います。

テレビやプロジェクター、オーディオはもちろん、PS5などと連携して、記憶を呼び覚ますような“あの場所”だったり“あの人”の「臭い」も、スタンプツールで感情を表現するようにリモートでやりとりする時代になるのではないでしょうか。

脳神経内科の早期発見・治療・予防・新薬開発にも期待

──というのは筆者の妄想ですが、当面この製品には、嗅覚測定のDX化によって今後増加が見込まれる嗅覚測定のニーズに応えることで、将来的には、認知症やパーキンソン病等にみられる嗅覚障害の早期発見、早期治療への寄与が期待されます。

 

登壇した名古屋大学神経内科の勝野雅央教授は、「脳の機能低下より前に嗅覚の低下が起こることが知られており、認知症やパーキンソン病の早期発見・治療・予防、新薬の開発にも役立ちます。また、ソニーらしい洗練されたデザインは被験者にも優しい」とコメント。

 

金沢医科大学耳鼻咽喉科の三輪高喜教授は、「50年ぐらい使われているアナログな検査方法の3つの問題点『手間がかかる』『臭い汚染』『客観性』が解決され、従来の結果との連続性が確保できれば画期的」と期待を寄せました。

筆者も会場で実際に嗅覚テストを受けました。もものような香りを嗅いだ後、その100倍の同じ香りを嗅ぎましたが、どちらもしっかり香りを感じ、もちろん後者がクッキリと感じたものの、とても100倍とは思えませんでした。必ずしも人の嗅覚はリニアではないし、香りと記憶との照合の不思議を感じる貴重な体験でした。

(取材・会場写真・文:遠藤)