「あわや自分が崩壊…もう二度とやりません」フィル・ティペット監督語る『マッドゴッド』製作秘話

フィル・ティペットの監督作『マッドゴッド』本日12月2日公開

「特殊効果の神」と呼ばれ、『スター・ウォーズ』『ロボコップ』『スターシップ・トゥルーパーズ』など名作を生み出したフィル・ティペットの監督作『マッドゴッド』が、2022年12月2日(金)より遂に公開中。このたびの公開にあたり、ティペットが映画制作時の想いや作品について語りました。

©2021 Tippett Studio
©2021 Tippett Studio

「つねに自分の映画を撮りたいという夢は持ち続けていました。それまで私のスタジオで恐竜の作品など多くの短編は作ってきて機材も揃ったので、監督作のタイミングが訪れたと悟ったのです。『撮らないと私の人生じゃない』という感覚でしたね」

 

完成に至るまでのプロセスについては次のように明かします。

 

「12ページの脚本が存在していましたが、すべてが曖昧な表現でもありました。数分の映像のためのストーリーボードも制作しました。ストーリーボードには少しだけアニメーションも使用しました。ただし当時のアイデアでは6分か、せいぜい10分くらいの長さの作品になっていたでしょう。その後、20年くらいの間、折に触れてスケッチをしたり、アイデアを頭から引き出したりしていました。私は小説はあまり読まないのですが、美術や科学にインスパイアを受け、それらを“消化”するように世界観を広げていった気がします。まぁ覚えていないことも多いですが(笑) 」

 

本作には『2001年宇宙の旅』や『メトロポリス』『イレイザー・ヘッド』などさまざまな名作へのオマージュが感じられます。特に思いを込めた作品や映画作家については次のようにコメントしています。

 

「『キングコング』やレイ・ハリーハウゼン、カレル・ゼマン......と、どんどん出てきますが、私が尊敬の念とともに最も影響を受けたのは、F.W.ムルナウやフリッツ・ラングなどドイツ表現主義の映画ですね。基本的にサイレント映画が好きなんです。会話だらけの物語は私にとって逆に退屈なんです。だからムルナウの時代を愛してしまうのでしょう」

 

 確かに『マッドゴッド』も会話はほぼ皆無。そのかわり、「音」への強いこだわりも感じられます。

 

「音楽もこの作品を発動させた要素です。私が重視したのは、映像と密接に連動するスコアでした。流れる音楽のトーンから映像のイメージを作ろうとした部分もあります。その点で幸運だったのは、地元の作曲家ダン・ウールとの出会いでした。かなり早い時期にダンが10分ほどのスコアを書き上げ、それが冒頭の巨大な城の映像に重ねられたりして、音楽は作品の素材になりました。音楽と映像の同時進行で、クラウドファンディング用の10分ほどの短編は完成したのです。そうした共同作業の後、サウンドデザインにリチャード・ベッグスが加わりました。『地獄の黙示録』でアカデミー賞音響賞を受賞した偉大な才能なので、これは奇跡でしたね。彼らとの仕事は2008年からたしか2012年か2013年まで続いたと思います」

ティペット監督、日本のファンにメッセージ

日本での公開を祝して、特別にフィル・ティペット監督から動画メッセージが届きました。

 

「日本の皆さんこんにちは。『マッドゴッド』楽しんでくれることを願っています。ある意味で本作は日本の観客のために作られた作品です。本作は完成させるのに30年を要しました。90%ストップモーションの作品です。私はCGよりもストップモーションの方が好きです。ストップモーションはCGよりも職人の手仕事を感じられるからです。作品において私が注目しているポイントです。『マッドゴッド』の旅路は宗教的な幻のようでした。バッハやベートーヴェン、モーツァルトにどのように楽曲を作っているのか尋ねたならば、ただ書き起こしただけだよと言うのではないでしょうか。神が教えてくれたんだと。私も同じような感じです。私が追い求めたのはビジョンだったのです。あわや自分が崩壊しかけました。でもその価値はありました。もう二度とやりませんけれど。『マッドゴッド』楽しんでください」

 

そう言うと、Vサインで締めくくりました!

地獄の向こうには何があるのか──グロいディストピア映像85分!

人類最後の男に派遣され、地下深くの荒廃した暗黒世界に降りて行った孤高のアサシンは、無残な化け物たちの巣窟と化したこの世の終わりを目撃する──。

 

「天国よりも地獄に惹かれる」と語る天才ティペットの潜在意識から溢れ出したのは、かつて誰も見たことのない暗黒世界。孤高のアサシンが荒廃した地底に潜り、拷問された魂、老朽化した地下壕、うごめく不気味なクリーチャーたちのあいだを巡るグロテスクなその質感の全てに生命力と共感が宿ります。

 

『マッドゴッド』は、2022年12月2日(金)より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほかで公開中。

 

(資料提供:ロングライド)

[作品情報]

原題:MAD GOD

監督:フィル・ティペット 

出演:アレックス・コックス

2021 年/アメリカ/84 分/1.78:1/カラー/5.1ch

日本語字幕:高橋彩/PG12 

提供:キングレコード、ロングライド 

配給:ロングライド 

公式サイト:https://longride.jp/mad-god/

©2021 Tippett Studio