玉木宏監督、林遣都を「行き過ぎないリアクションがいい」──『アクターズ・ショート・フィルム3』

『アクターズ・ショート・フィルム3 』2月11日放送・配信

5人の人気俳優、高良健吾、玉木宏、土屋太鳳、中川大志、野村萬斎がショートフィルムの監督に挑戦する『アクターズ・ショート・フィルム3』。2月11日(土・祝)の放送配信を前に、『COUNT 100』の監督を務めた玉木宏と主演の林遣都の公式インタビューが届きました。

[玉木宏]ヘアメイク:渡部幸也(riLLa)/Yukiya Watabe(riLLa) スタイリスト:上野健太郎/Kentaro Ueno、[林遣都]ヘアメイク:中西樹里/Juri Nakanishi スタイリスト:菊池陽之介/Yonosuke Kikuchi[取材&撮影]黒豆直樹

なぜ題材がボクシング?

――最初に監督オファーが届いた際のお気持ちを教えてください。

 

玉木: 1回目、2回目の作品を見ていて、よく知っている人たちが監督をやっていることは知っていました。それを(アクターズ・ショート・フィルム2で監督を務めた)永山瑛太くんと話している中で「いいなぁ。やってみたいなぁ」と思っていたので、お話をいただいた時は願ったりかなったりでした。監督をやりたい気持ちはずっとあったのですが、やるにあたってどういう題材にしようかな? ということはわりと早い段階で考えました。

 

――そこでボクシングを題材にしようと?

 

玉木:たどり着いたというか短い尺の中で何を題材にしようか? メッセージ性は強く打ち出したいと思って いました。

いろいろな題材があって、何個も頭の中に浮かんだのですが、自分がいま何を伝えたいか? ということを大切に考えた時、“俳優”というのはある意味で二面性のある職業であり、言ってしまえば別の誰かがやっても成立してしまうかもしれないもので、そういう自分ではなくてもいい、“誰か”に乗っ取られる怖さみたいなものを表現できたら面白い世界になるんじゃないかと思いました。

ただ、人が生きている上で、その背景を描かなくてはいけない。ボクシングに限らず、スポーツ選手はみなさんそうだと思うのですが、短い時間の中でギュッと凝縮した時間を生きていると思います。たまたま僕も遣都くんもボクシングの経験があったので、それをリアルに描けたらと思いました。

 

――玉木さんからのオファーを受けていかがでしたか?

 

林:お話をきいて、とても嬉しかったです。この企画自体は耳にしたことはありましたが、今回、玉木さんが監督と聞いて、憧れの俳優であり先輩なので二つ返事でぜひやらせていただきたいと思いました。

 

――オファーはどのような形で? 玉木さんから直接オファーが?

 

林:いえ、事務所のほうへいただきました。

 

玉木:連絡先は知っていましたが、こちらから打診すべきなのか? 正式にWOWOWさん側からオファーしてもらうか? と考えて、WOWOWさん側からオファーしてもらいました。でも、あとから連絡はしました (笑)。

 

――本格的に監督業をされるのは初めてでしたが、挑戦されてみていかがでしたか?

 

玉木:結論から言うと楽しさしかなかったです。ただ、そこにいたるまでに...今回の作品は20分ちょうどなんですが、(企画のルールとして)「25分以内」という枠組みがあって、自分で脚本を書いてはいるものの尺感がわからないというのはありました。オーバーなのか? ショートなのかわからず...、プロデューサーの方から、いろいろアドバイスをいただきながらブラッシュアップをしていった感じで、その作業も「なるほどな」と思うこ とがたくさんありました。

僕らは普段、環境を与えられてお芝居をするのですが、一歩引いたところから現場を組み立てていく面白さというのは、またちょっと違ったクリエイティブな仕事で、楽しかったです。現場では、自分が頭の中で思い描いていたことが目の前で行なわれていて、時間を忘れてしまうくらい楽しい時間でしたが、遣都くんに関しては一人二役を担っていたので、体力的なことや、スケジュールも考えなくてはいけない。ブレーキをかけながらアクセルを踏んでいるような感じで臨んでいました。

 

――一人二役の生活が交互に描かれているシーンなどは狙った通りの描写が出来上がりましたか?

 

玉木:遣都くんがこの役を引き受けてくれてよかったと思うし、さすがだなと思うシーンがたくさんありました。説得力を見せてくれるというか瞳の輝きひとつで全然違う人に見えて、だからこそ成立したのだと思います。後付けで「●日経過」というのは入れていますが、遣都くんの演技にすごく助けられました。

 

――玉木さんの“監督”ぶりはいかがでしたか? 俳優をやられている玉木さんだからこその演出などもあったのでしょうか?

 

林:また玉木組があったら、どんな役でもいいので毎回参加したいと思うくらい充実した時間でしたし、「俳優さんが監督をやってみた」という現場では全くなく、いつも経験している通りの撮影現場で、監督が中心に立っていてみなさんが付いて行くというチーム感がありました。

迷いがなく、まとまって、限られた時間の中で想定以上のことが生まれていく、気持ちの良い現場でした。

林遣都の芝居は「いい塩梅」

――林さんのお芝居が印象的だったシーンを教えてください。

 

玉木:どこが印象的だったというよりも、全てを通していい塩梅だったと思います。人それぞれですが、もし遣都くん以外の人が演じたら、トゥーマッチだっただろうなと感じる部分もありました。一人二役だったので、遣都くんにとっても見えない空間での演技だったと思いますが、本当にこの物語、この世界観を、行き過ぎないリアクションで演じてくれたと思います。

 

――キャラクターに関して、「こうしてほしい」というオーダーなどは?

 

玉木:台本の冒頭に、この作品を作るにあたってのテーマ、メッセージというのを書かせていただいたんですが、これをキャスト、スタッフに共通認識で持ってもらい、シーンごとに少しだけ思いをプラスして伝えしました。なので、そこは撮影に参加しているキャスト、スタッフの間でズレはなく、いけたのではないかと思います。

 

――林さんは、玉木さんの演出が印象的だったシーンはありますか?

 

林:撮影は2日間だったんですが、まずクランクインして最初のカットが冒頭のシーンで、主人公が歩いてきて、チラシを手渡されて振り返るというシーンでした。ロケでエキストラの方たちもいたのですが、一発OKだったんですよね(笑)。

 

玉木:あはは(笑)。 

 

林:玉木さん、全く迷いがなくてカッコいい! って思って(笑)。

 

玉木:いやいや(笑)。

 

林:さすが玉木さんだなと思いました。こういう挑戦的な企画に対しても迷いがなく引っ張っていってもらえそうな気がして、一気に撮影の2日間が楽しみになりました。その後も、“もう1人の自分”を演じる時の塩梅に関しても、違いのリアリティを突き詰めて考えていくことよりも、変化していく段階を玉木さんに確認しながらやらせていただいたんですが、全部答えをいただけるので、信頼しきって玉木さんが思い描いたものに近づけるように挑んでいきました。

 

――そんなにテイクは重ねないんですか?

 

玉木:そうですね、基本的にシーンの状況は把握されているので、軽く伝えてすぐに臨むという感じです。遣都くんが毎回ドンピシャなところを突いてくれるので、タイミング的なところで「もう1回」と言ったことはありましたけど、3回やったことはなかったかな...? だいたい2回目でOKは出していますね。

 

――クリント・イーストウッドのようですね。

 

玉木:いやいや(笑)。そこは、ちゃんと整っていたから「OK」が出せるというだけです。

一番難しかったのは「セリフ」を考えること

――監督業に以前から興味があったということですが、実際に監督をされる上で大切にしたことや“信念”みたいなものはありましたか?

 

玉木:僕の主観かもしれませんが、監督が作品を残す意味というのは、いまの時代を映すものなのか、その人が伝えたい思いなのか、その両方かもしれませんが、そういう意味合いがないといけない気がして。僕がそういう作品を見るのが好きということがあると思います。僕自身がいま考えていることが、この 『COUNT 100』という作品を通して何か伝わればいいなと思っています。冒頭の話に戻るんですけど、俳優は二面性があって誰か違う人に演じられているかもしれない、そういう怖さや不安を作品を通して伝えることができれば意味があるものになるのではないかと。

 

――今回はこういう作品になりましたが、「伝えたい」思いはご自身の中にいくつもストックされているんでしょうか?

 

玉木:そうですね。今回でいうと6個くらい「こういうものがやりたい」というのがパパっと浮かんできました。以前、フォトブックを出した時に担当されたライターさんのやり方で、インタビューする相手に「100個、単語でも漢字でもいいから、いま頭に浮かんだものを書き出してください」というんです。それを参考に「ボクシング」「俳優」や「二面性」、「乗っ取られる」、あとは「鏡面世界」など好きなワードを書いて並べて、それをつなげて、そこからひとつの物語ができないか? というやり方で内容を決めました。

結果的に背景にボクシングを入れ、自分の頭の中にあるキーワードで作り上げたストーリーになりました。それらを組み替えればまた違うストーリーも出来ると思います。

 

――今後、長編監督にも挑戦したい思いはありますか?

 

玉木:いやぁ、長編となると...。今回、何が難しかったというと、セリフを考えることが難しかったんです。セリフに人格が込められると思うので、登場人物が少なければ埋め切れると思いますが、登場人物が多くなって きて、それぞれの人格をちゃんと成立させていくのは...。いろんな方向から作品を見ていかなくてはいけないと思うので、なかなかセリフを考えるのは奥が深くて難しいなと改めて感じたところです。なので、長編はいまの段階ではちょっと難しいかもしれないという思いです。

『アクターズ・ショート・フィルム』とは?

映画史上BESTにもあげられる『市民ケーン』は、俳優オーソン・ウェルズが25歳のときに監督・出演した作品です。以来、北野武、クリント・イーストウッドにいたるまで、俳優が名監督となる例は多く、日本でも若手俳優らが監督に挑戦し、成果をあげはじめています。監督の意図を最もよく理解し表現できる俳優は、監督としての才能をも埋蔵した存在なのです。

 

〝映画のWOWOW〟が開局30周年を記念し俳優たちと立ち上げたショート・フィルム・プロジェクト。目指すは「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」のグランプリ受賞、そしてその先へ...。

 

ルールは、1.尺は25分以内 2.予算は全作共通 3.原作物はなし 4.監督本人が出演すること。

 

 『アクターズ・ショート・フィルム3』は、WOWOWオンデマンドで2023年2月11日20時よりWOWOWプライムで放送、WOWOWオンデマンドで配信されます。

[番組概要]

監督: 高良健吾、玉木宏、土屋太鳳、中川大志、野村萬斎(※五十音順)

チーフプロデューサー:射場好昭/コンテンツ戦略:仁藤慶彦/プロデューサー:小室秀一、宮田幸太郎、和田圭介 

制作プロダクション:スタジオブルー 

製作著作:WOWOW

番組公式サイト : https://www.wowow.co.jp/movie/asf/ 

番組公式Twitter : https://twitter.com/asf_wowow 

番組公式インスタグラム:https://www.instagram.com/asf_wowow/