『アダマン号に乗って』4月28日公開
本年度ベルリン国際映画祭コンペティション部門で最高賞の金熊賞を受賞した日仏共同製作によるニコラ・フィリベール監督最新作『アダマン号に乗って』が4月28日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかで全国公開されます。このたび、二コラ・フィリベール監督のインタビュー映像が到着しました。
第73回ベルリン国際映画祭コンペティション部門で金熊賞を受賞した 『アダマン号に乗って』。ドキュメンタリー映画が金熊賞をコンペティショ ン部門で受賞するのは、長いベルリン国際映画祭の歴史においても 二度目という快挙。受賞時の気持ちについてニコラ監督はこう語っています。
「受賞以前に作品がノミネートされたことが嬉しかったです。今まで参加はしていても、ノミネートされたことはありませんでした。金熊賞受賞は予期していなかったので、本当に驚きました。自分にとっても、作品にとってもいいことだと思っています。作品が今後、精神医療に与える影響にも期待しています。精神医療の世界は今、苦しみの中にあるので、少しでも人間的な精神医療にスポットラ イトが当たってくれれば嬉しいです」
アダマン号は精神疾患者の為のデイケアセンターでいろんな患者が毎日やってきますが、一体どんな場所なのでしょうか。
「アダマン号は2010年に開所しました。パリの中心部、セーヌ川に浮かんでいます。係留されているので、航行する船ではありません。言うならば“浮かぶ建造物”です。乗っているときは水の上にいる感覚があります。船の中にはさまざまな空間があります。患者はその中を自由に移動できて、閉ざされた空間はありません。船に使われている素材はガラスや木材など重厚感があり、光がたくさん入ります。パリの中心にいるのに別の場所に来たような錯覚にとらわれる、とてもゆったりとした場所です。水が近くにあるというのも重要ですね、場所そのものに癒し効果があるんです」
つい訪ねてみたくなる場所ですが、基本的には観光客などがふらりと訪れることができる場所ではない。そういった面でも患者たちの穏やかな時間は守られています。では、どんな患者たちとスタッフで成り立っているのでしょうか?
「通ってくるのは主にパリに住む患者さんです。定期的に通う人もいれば、不定期に通う人もいますし、複数や単体のワークショップに来る人もいれば、ただ雰囲気に浸ってコーヒーを飲みに来る人もいます。スタッフも患者さんもみんな私服なので、誰が患者さんで誰がスタッフなのかも区別がつかないくらいで。レッテルがないんですね。患者さんが『病気』の枠に閉じ込められておらず、ちゃんとした『人』として見られているんです。スタッフは、彼らの『勢い』を少し引き出そうとします。彼らを孤独から引き出して、世界とつながる手助けをするのです。アダマン号はそういう思想をもった場所です」
映画の中では、そうした患者たちが気ままに弾き語りをしたり、絵を書いたり、ジャム作りをする様子などを観ることができます。気分の良い日もあれば、そうでない日もある、どんな日でもアダマン号は、ありのままを受け入れてくれる場所に感じられます。
そんな彼らの日常をとらえた『アダマン号に乗って』の撮影は7ヶ月間、収録映像は100 時間にも及びました。中でもニコラ監督が一人きりでカメラを携え、撮影をしたものがほとんどを占めるそう。
最後に「アダマン」の意味を聞いてみるとこう答えてくれました。
「フランス語でダイヤモンドの中心という意味です。ダイヤモンドの核となる硬い部分です。英語でadamantは『確固たる』という意味です。フランス語ではあまり使われませんし、私も意味を知りませんでした。『アダマン』って音がきれいですよね」
精神科医療の「奇跡」の現場
舞台は、パリの中心地・セーヌ川に浮かぶ木造建築の船。ユニークなデイケアセンター「アダマン号」。精神疾患のある人々を迎え入れ、文化活動を通じて彼らの支えとなる時間と空間を提供し、社会と再びつながりを持てるようサポートをしています。
運営するのは、精神科医療の世界で起こる“質の低下”や“非人間化”の波にできる限り抵抗しようとするチーム。患者もスタッフも区別なく、誰しもにとって生き生きと魅力的なこの場所を監督は「奇跡」と呼んで、ここにやってくる人たちに寄り添い、優しい眼差しで捉え見つめ続けています。
『アダマン号に乗って』は、4月28日公開。
[作品情報]
『アダマン号に乗って』
原題:Sur L’Adamant
監督:ニコラ・フィリベール
2022年/フランス・日本/フランス語/109分/アメリカンビスタ/カラー
日本語字幕:原田りえ
共同製作・配給:ロングライド
協力:ユニフランス
© TS Productions, France 3 Cinéma, Longride – 2022